それは封印される前のセーブデータ
主人公が【ラスボス?】によって、能力を封印される前の、異世界に転移した所の話です。
メンテナンスを終えたばかりの、銀色のメタリックのバイクに股がり、俺は高速道路を走っていた。
ふっふっふっ。すっかり綺麗になって、【そよかぜ】も機嫌がいいようだ。
【そよかぜ】というのは、このバイクの名前だ。免許をとって、最初に乗った思い入れのバイクだ。
駆けるバイクが、風を切る。実に、心地いい風だ。――しかし、それを遮る者達がいた。
俺の前方を走る、二台の乗用車。その二台はふらふらと、お互いを追いかけ合うような走り方をしていた。
「ちっ、煽り運転だな。ありゃあ……」
ニュースでも、よく見かけるようになった。それが今、目の前で行われている。
仕方なく、車間距離を多目にとって、様子を伺う。――が、
「――停まりやがった!?」
二台の乗用車は、よりにもよって高速道路の、ど真ん中で停車した。
――車の間を抜けるか?――いや、一旦、停まろう。
俺は、ゆっくりとスピードを落として、端に停車しようと試みた。
――後ろから、強い衝撃と大きな破裂音が聞こえたような気がした。
どうやら、後続車が突っ込んできたのだった。俺は空から、【それ】を見ていた。
車と車の間で、バラバラになった【そよかぜ】と、ライダースーツ姿の【俺の身体】があった。
――あぁ、あれは、朝のニュースとかで【からだをつよくうち……】とか報道されるな。
要するに、即死である。選択を間違えたな、やっぱり通り抜けていけばよかった。
――そして、意識が、薄れていく……。
気が付くと、俺は草原の上に寝ていた。辺りには、まばらに木が生えていた。
「あれ?俺……死んだんじゃ……?」
自分の、身体を見てみる。手袋、ライダースーツ、ブーツ。――どこも外れてはいなかった。
頭は、しっかりとフルフェイスのヘルメットで、守られていた。
そして、ヘルメットを外そうと、手をかけたとき。後ろに何かがある気配を感じた。
立ち上がって、後ろを振り返ると――、
「――【そよかぜ】!?無事だったのか!?」
そこには、バラバラになったはずの【そよかぜ】が、スタンドを立てて座っていた。
――座っていたというのは、比喩的表現だけど。
喜びのあまり、思わず【そよかぜ】に抱きつく。うんうん、どこも壊れていない、エンジンもちゃんとかかる。
――が、【そよかぜ】の車体に、紙が貼られているのを見つけた。
「誰だよ。こんなことをするのは……?」
俺は、乱暴に紙を剥がした。――何かが書いてある。
――【セーブ】の仕方。
意識を集中させると【メニュー画面】が現れます。そこで【セーブ】を行って下さい。
「……何のことだ?」
【セーブ】?【メニュー画面】?よくわからなかったが、書いてある通りに、意識を集中させる。
すると目の前に、というよりはヘルメットのバイザーに、ゲームでよくみる【ウインドウ】が表示される。
――このヘルメットに、そんな機能は無いはず。なるほど……。
「……やっぱり、俺と【そよかぜ】は死んだんだな」
これは、いわゆる異世界転移というものだろう。――実際に、あるものなのだな。
そうと解れば、この【メニュー画面】で、出来ることをしてみよう。
とりあえず、【セーブ】を行ってみる。何が【セーブ】されているのかは知らないけど。
【セーブされました】と、表示されて、【ロード】が現れる。まだ、それは選ばないでおこう。
次は、【ステータス】を確認してみる。ふむふむ、レベル式なのか。
レベル 一
攻撃力 二十
防御力 十五
――防御力が低めなのが、ちょっと気になる。今度は、【アイテム】を見てみる。
「おっ!【そよかぜ】が入ってる!」
なんだか、嬉しい気持ちになった。そして、【そよかぜ】の説明欄があったので、確認してみる。
――そよかぜの名前を持つ、バイク。【そよかぜのマント】に、変わる。
――【そよかぜのマント】?俺は、【そよかぜ】に触れながら、それを想像してみる。
すると、【そよかぜ】が輝きだし、銀色の薄布地に変わった。
そして、ライダースーツの上に、ふわりと重なると肩の辺りから背中の方に広がる。
「おぉ!」
膝裏の辺りまで広がると、銀色のマントになった。【アイテム】の【そよかぜ】も、【そよかぜのマント】に変わった。
俺は意気揚々と、マントに触れてみる。ライダースーツの上に、羽織っているようだった。
まるで、特撮ヒーローみたいだ。それに――、
「マントというよりは、衣だな」
すると、【アイテム】の【そよかぜのマント】が【そよかぜのころも】に変わる。
説明欄を見ると、ちゃんとバイクに戻せるようだった。
「……んっ?【そうび】も、あるな」
更に、【ステータス】に【そうび】があり、確認してみる。
そこには――、【ライダースーツ】、【そよかぜのころも】と、表示されていた。
「ヘルメットは、スーツに含まれているのか……」
俺は確認するように、ヘルメットに触れて、バイザーを開いてみた。
「……なんだろう?」
開いた途端、嫌な臭いを感じた。まるで、血のような鉄の臭い。
それを確かめようと、臭いのする方へと歩みを進めていく。
「――うっ……!?」
そこには、壊れたかごと草が散っていて、それに、童話とかでよくみる服装のドレスの女性が倒れていた。
そして、横たわる草と土の上に、血を広げていた。――生きているのだろうか。
確かめようと、近付こうとしたとき、女性が動きだした。――いや、動いたのは女性ではなかった。
女性の腹の辺りから、狸ほどの大きさの動物が、後ろ足で立ち、頭を上げる。
鋭い爪を持ち、もぐらの頭をしていた。そして、その口元は血で滴り、白い牙を覗かせていた。
「――ひっ!」
思わず俺は、声が洩れる。――それに気づいた、その【ケモノ】は、唸り声を上げて襲いかかってきた。
今の光景を見ていた俺は、驚きすくみ、両腕を前に出して防御をする。
――しかし、【ケモノ】の爪はヘルメットの下に入り、再び俺は自分の姿を空中から眺めて――、
――気が付くと俺は、真っ暗な世界に浮かんでいた。
「……あれ?首は……!?」
慌てて、ヘルメットの下を確かめる。――ちゃんと繋がっていた。
――なんだったんだ、あの【ケモノ】は?いや、現実世界でも動物に殺される事例はある。
恐らく、あの女性も襲われたのだろう。
――しかし、ここは一体何処なんだろう?
仕方なく、【メニュー画面】が開けるか、試してみる。――開けた。
「……【セーブデータ】はある」
とりあえず、【ロード】を選択した。
――真っ暗な世界が、輝きだし――、
再び、草原の上に横になっていた。後ろには【そよかぜ】も、ちゃんと居る。
今度は、すぐにバイザーを上げて、耳を澄ます。――しばらくすると、女性の叫び声が聞こえた。
急ぎ女性の元に走る。すると、草原に座り込む女性と、あの【ケモノ】が見えた。
――やっぱり、時間と場所が戻っている。
「やめろぉ!!」
俺は、そのまま【ケモノ】に体当たりをした。あっさりと【ケモノ】は吹き飛んだ。
それを見届けた後、俺は女性の前に屈み、女性の様子を確かめる。
「大丈夫ですか?」
――そういえば、言葉は伝わるだろうか?少しの沈黙の後、女性は、
「あっ!?」
驚きの表情と声を上げて、後ろを見る。俺が振り返ると同時に――、
俺は又、空中で自分の背中を見る。その先には、【ケモノ】が爪の生えた腕を振り切った姿だった。
――そして再び、真っ暗な世界に戻ってきた。暗闇の中を漂う。
もう一度、【ロード】を選べば、あの場所から始まるだろう。
だが、あの【ケモノ】。あんな、化け物がいる場所に戻る?――嫌だな。でも――、
あの女性を、救えるかも知れない。知っていて、見過ごすのは嫌だった。
――いっそのこと、【そよかぜ】で突撃するか?――いや【そよかぜ】を、そんなことに使いたくない。
――やっぱり、真正面から戦うか、女性を連れて逃げるしかないのか。
「……いくかぁ」
俺は、【ロード】を選び、再び戻る。あの場所と時間に――。
そして、【ケモノ】を吹き飛ばした後、俺は構えをとる。子供の頃に習っていた、格闘術【震鳴拳流】の構え。
【震鳴拳流】――、色々な格闘術を複合した、創始者のオリジナルの格闘術。今思えば、怪しいところも有ったけど――、
今は、それに頼るしかなかった。
――結局、【ケモノ】の大きさもあり、更に動物らしくない動きで、何度も死ぬことになった。
何度も、逃げようとも考えたけど、その度、最後は死ぬことになった。
ある時は、崖から落ちて。又あるときは、鎧を付けた二人の男女に捕まったり。
なんとかしようと、説得を試みても言葉が伝わらず、縛られて近くの山小屋に何日も放置されたこともあった。
その最中、任意で【ロード】が出来ることも、わかった。――そして今、目の前には【ケモノ】がいる。
お陰で、【ケモノ】の行動は手に取るように、もう殆ど覚えてしまっていた。
まるで、人間のようなフェイントや、ステップをとり、爪で引っ掻いてくる。
俺は、小さな動作で避けて、反撃を繰り返していく。――が、
【ケモノ】の爪は、俺の左腕を切り裂く。スーツが破れ、血がにじみ出る。
しかし、そこまでは解っていた事。空中で、身動きが取れない【ケモノ】に、
左足を地面に踏み込み、右手をふりかぶった。右拳を放つと同時に、今度は右足を地面に踏み込む。
【ケモノ】のこめかみに、拳がめり込む。
その衝撃で【ケモノ】は、吹き飛ぶ。そして、地面に落ちるとき――、
――グシャァ。
何かが潰れるような、嫌な音が聞こえた。【ケモノ】を見ると、口から舌を、だらりと出していた。
飛ばした先に、大きめの石が有ったようだ。後頭部から、血を流して絶命していた。
――何度も、挑戦した。もぐらのような【ケモノ】との闘いが、やっと終わった瞬間だった。
――とりあえず、【メニュー画面】を開き、新しく【セーブ】を行う。もう、何度も闘いたくなかった。
【セーブ】をしながら、乱れていた呼吸を、深呼吸して落ち着かせていると――、
「あの……ありがとうございます」
【ケモノ】に襲われ、座り込んでいた女性に話しかけられる。
「はっ、はい!?」
かれられた言葉が、自分の知っている言葉だったので、思わず声が裏返ってしまう。
「あ、すいません。……お嬢さんは、大丈夫ですか?」
驚いたのを隠すように話しかけ、女性の側に寄り、目線の高さに座り込む。
「……私は、大丈夫ですが。……あの、腕が」
言われて、俺は自分の左腕を見る。そういえば、爪で切られていたっけ。
「薬が有りますので、その……」
彼女は、言葉を濁す。あぁそうか、怪我の治療がしたいから、ライダースーツを脱いでほしいのか。
ただ、面と向かって言うのが、恥ずかしいんだな。
「あぁ、ごめん。ちょっと待ってね」
俺は後ろを向いて、ライダースーツの首の辺りのファスナーを下ろす。
――ビチャ。
「……えっ?」
ファスナーを、みぞおちの下辺りまで下ろしたとき、みぞおちの辺りから、何かがこぼれ落ちる。
――それは、俺の【内臓】だった。呼吸が荒くなって、目の前が暗くなっていく――。
「――【ロード】……」
意識が遠退くなか、【メニュー画面】を開き、【ロード】を選択する。
――目の前は、真っ暗な世界。俺は、恐る恐るスーツのファスナーを下ろす。
少し開いたファスナーの隙間から、手を入れてみる。――ヌチャリとした感触が、伝わってくる。
俺は怖くなって、直ぐに手を引き、ファスナーを閉める。スーツの下は、皮膚が無かった。
寧ろ、ライダースーツが皮膚の代わりになっていた。不思議と痛みはなかった。
「――なんだよ、これ……?」
改めて身体を調べると、手袋とブーツも、スーツにファスナーで繋がっていた。
――吐き気を感じながらも、状況を整理していく。今まで気が付かなかったが、事故の影響なのだろう。
――さて、状況がまとまったところで、【セーブデータ】を開く。
先程、【セーブ】した方を【ロード】するか。それとも、それ以外を選ぶか……?
悩んだ挙げ句、【ケモノ】を倒した後の方を選ぶことにした。
「……どうやって、説明しよう?」
世界が輝きだし、俺は光に包まれて――、
「あの……ありがとうございます」
――女性に、声を掛けられる。――そうだった、このタイミングで【セーブ】したんだった。
「いえ……貴女は、大丈夫ですか?」
俺は、女性の側に寄り、目線の高さに座り込む。さて、この後だけど――
「……私は、大丈夫ですが。……あの、腕が」
俺は、自分の左腕を見る。勿論、【ケモノ】に斬られた傷がある。
「薬が有りますので、その……」
――どう、説明するべきか?これが皮膚です……とか、呪いで脱げませんとか、かなぁ……?
「ごめん……これを脱ぐのには、時間がかかるんだ」
とりあえず、皮膚とか呪いとかの言葉は使わずに、説明した。……大丈夫かな?
「……それでは、この薬草を使ってください」
彼女は、倒れていたカゴから、汚れていない草を取る。それを手のひらで、揉む混む。
草から汁がにじみ出ると、それを俺の左腕の傷にすりこむ。
今まで、痛みの感覚が無かったと思っていたが、じんわりと痛みが染みてきた。
どうやら彼女は、薬草を採っていたらしい。俺は、草を幾つか手に取ると、それをまじまじと眺めた。
――ピィーー。
ホイッスルのような、笛の音が聞こえる。それと同時に、ガシャガシャと音が聞こえる。
音がした方を見る。――俺を捕まえた、鎧姿の二人組だ。
「――まずい!?……これ、ありがとう!」
俺は直ぐに立ち上がり、彼女にお礼を言って、走り出す。
「あっ!待って……」
彼女は、俺を引き留めようとしていたが、それでも足を止めなかった。
「おい!待て!」
二人組の男の方が、追いかけてくる。
俺は、走りながら【そよかぜ】をマントからバイクに変える。都合よく、股がった状態になった。
「なんだ!?」
後ろの方で、男が驚きの声を上げていたが、俺は【そよかぜ】のスロットルを回し、加速した。
――男は、静止の言葉を叫んでいたが、しばらくして聞こえなくなった。そのまま、しばらく走ってから停止した。
――舗装されていない地面で、走行したから【そよかぜ】のタイヤが心配だ。
【そよかぜ】のスタンドを立てると、タイヤを確認した。問題は無かった。
寧ろ、タイヤの溝しかないくらいだった。
それにしても、あの鎧の男の言葉が、ちゃんと理解できたような……?
なんとなく【メニュー画面】を開き、【ステータス】を見てみる。
「……ん?【スキル】?」
なんと、今までなかった【スキル】という項目が、追加されている。
それを開いてみると、【げんこりかい】と表示されている。
いつの間にか、この世界の言語が理解できるようになったようだ。全ての言語かは、わからないけど。
「とりあえず、一つ安心できるな」
【アイテム】欄にも、ついポケットに、仕舞ってきてしまった草が表示されていた。
説明を見ると、薬用にも食用にもなる、ポピュラーな草花らしい。
しかし、ここはどこだろう。世界のこともだけど、今は林から出たい。
「兎に角、人がいそうな所を探さないと……」
【そよかぜ】を、衣に変えて人里を探すために歩き出す。
しばらく歩いていると、空は夕陽でオレンジ色になっていた。その頃になって、やっと村らしい家々を見つけた。
「ふう、やっと人が居そうな場所に来れた……」
――しかし、どうしたものか?今の姿といい、ヘルメットを取ることも出来ない。
きっと、怪しまれるだろう。それどころか、敵とみなされるかも……。
民家の近くの茂みに隠れて、様子を見てみる。人が数人、見える。
普通の、日常の光景だった。
「あの……?」
不意に、後ろから声を掛けられる。声を出さないように、恐る恐る後ろを振り返ると――、
黒髪のボブショートの女性が、屈んで此方を見ていた。薬草を塗ってくれた女性だった。
「あっ、さっきの……」
偶然にも、彼女の住む村に、たどり着いたのだった。
「何か、訳ありなのでしょう?どうぞ、此方へ……」
俺は、言われるがままに彼女についていく。すると、納屋の様な建物に案内される。
「こんな所で、申し訳ないのですが……。少し、待っていてください」
中に案内すると、彼女は外に行ってしまった。とりあえず、近くにあった椅子に腰掛ける。
「うーん、何だろうな?」
疑問に考えながら、左腕の傷を見てみる。薬草は、剥がれてしまったようだ。
血は止まっていて、破けたライダースーツも、ほつれが少なくなっていた。
どうやら、勝手に修復しているようだ。この世界の影響なのか、異世界転移の特典みたいな物なのか……?
「あぁ、そうだ」
今のうちに、【セーブ】をしておこう。【メニュー画面】を開き、【セーブ】を行う。
「あっ!」
しまった。間違えて一番上の、つまり異世界に来たばかりの【セーブデータ】に上書きしてしまった。
【セーブデータ】の数は、全部で五つ。一つ目が先程、上書きしてしまったデータ。
二つ目から四つ目が、【ケモノ】と闘わず、逃げた先でセーブしたデータ。
これは、どれも死んでしまうデータ。出来れば、これに上書きしたかった。
そして、五つ目。【ケモノ】を倒した直後の、【セーブデータ】。
――まあ、何時かは上書きしたかもしれない。悔やんでも仕方ないか。
そうこうしていると、ドアからノックの音が聞こえる。
「あの……入っても、大丈夫ですか?」
あの女性の声だった。返事を返すと、彼女が入ってくる。
「食事を持ってきました。……お口に合えば、良いんですが」
彼女の手には、木で出来たお盆の上に、木の器と木のスプーン。
そして器には、パンをほぐして植物と一緒に煮たような物が入っていた。
「……これは?」
「薬草と一緒に煮込んだパン粥です。この村では、怪我をした時は食べる習慣があるのです」
――なるほど確かに、あの薬草の説明には食用になるってあった。
「ありがとう、いただきます」
バイザーを開き、パン粥を口に運ぶ。少し薬草の苦味を感じたが、塩味やパンの甘味で、程よい味付けになっていた。
「――もしかして、これは貴方の食事でしたか?」
ふと、気になって近くで椅子に座る彼女に聞いてみる。
「いえ、私は貴方のお陰で、怪我をしていませんし、母が多く作ってしまったので」
それならいいのだけれど、もし嘘だとしたら、悪いことをしてしまったな。――と、
「そういえば、まだ名前を言っていませんでしたね?」
確かに、彼女の名前を知らないし、俺自身も自己紹介をしていない。
「私は、【イニス・ファーシア】です。先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「俺は、あん……いや、【アンロック】と呼んでくれ。食事、ごちそうさま」
――何故か、俺は自分の名前が思い出せなかった。咄嗟に言葉にしたのは、ゲームの主人公に、よく付ける名前だった。
――言ったものは、仕方ないか。それから、イニスと色々と話をした。
彼女が、薬草を採りに林に向かった事。俺が別の世界から、来た事。
あの【ケモノ】は【鬼モグラ】という、動物で洞窟の奥に生息して滅多に人里には現れない。
彼女を襲ったのは、【はぐれ】だそうだ。――そして、俺の着ている【ライダースーツ】について。
これには、異世界から来たと言ったときより、かなり驚いていた。
「……元の世界での最後が、酷かったんだと思う」
彼女は悲痛な顔で、俺の全身を眺める。――と、何かを思い付いたように、
「……魔法学都」
「魔法学都?」
聞いたことのない名前に、思わず聞き返す。何でも、俺が逃げ出した時の鎧の二人組が、この村に泊まっている。
その二人が向かっていたのが、【魔法学都】との事。……というか、あの二人が近くに居たのか。
その【魔法学都】なら俺が、この世界に来た理由、【ライダースーツ】の事。そして――、
元の世界に、帰る方法が判るかもしれない。イニスは、一つ提案する。
「……どうでしょう、二人の跡を付いていってみては?」
明日の朝には、鎧姿の二人は出立する。その後ろを、気づかれないように付いていく。
「……待てよ?」
俺は、一つの妙案を思い付いた。
――続く。
『はい』
「はい、じゃなくて。モグラの話から進んでないよ?」
『そうですね。まぁ、主人公を三人にしたかったので』
「じゃあ、次は場所が変わるの?」
『そうです。この三人の話を一つとして、二話目
を三人分です。』
「長くならない?」
『完結までの予定は、三話分を三人分と最後の一話ぐらいです』
以上です。次回は、【アン】が主人公の話です。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




