7 彼方
今更ながら、余裕でハロウィンを過ぎたハロウィンネタですわ。どうぞ読んでくださいまし。
あれから、待ちに待ち、全員が――といっても五人だが――起きてようやく、十分を知らせるアナウンスが机から流れる。
『おっそい!! どんだけ待たせんのよ!? さっさとしてクレメンス……』
ふざけた口調は、全く変わらない。
それを初めて聞く者たちは、顔に苛立ちをうっすらと浮かべる。内心はもっと、黒々としたものがあるに違いない。
『じゃあ今から十分間ね~――……ったく、どんだけ遅いんだか……』
そしてスピーカーから粗雑な音がして、それと同時に隣にいた巨体が声を荒げる。
「んじゃあのアマァァ!!!!」
そんな様子のゴリラを誰も止めはしない。――誰しもが同感しているからだ。
何かの催しなのだとしても、主催者側が幼稚すぎている。だからこそ、
ストレスがたまる。
「みんな同じだ。だから今は、先のことだけ考えろ」
フードがゴリラを制して、そして残りの二人へ、事情を説明する。できるだけ時間を使わないように。不必要なことを言って、惑わせないように。
起きた二人の女の子は、まるで対照的だった。片や、頼もしい、先日の件で世話になった女の子。そしてもう一人は、黒髪のストレート、眼鏡で垂れ目、俗にいう『清楚』という部類の人間のようだった。それでいて、どこか内起草で、先程、ゴリラが叫んだ際も、驚きのあまり、その小さな体を震わせていた。
僕はその女の子の前に歩いて行き、少し下にある目線に、自分の目線をあわせて、できるだけ優しく聞こえるように努めて、言った。
「僕らは、君のことをどう呼んだらいいかな……?」
「え……と、――皆さんは、どうやって名前を付けられたのでしょうか……?」
「それぞれの特徴、かな」
「じゃあ、『メガネ』で、いいです……」
メガネは、終始下を向いていた。身長的には中学生とも見えるし、性格で言えばさらに下とも思えてしまう。
そして、僕は最後に、彼女に話を振った。昨日ぶりの彼女に。
「じゃあ、君のことはなんて呼べばいいかな?」
「何とでも呼んで。私は皆みたいに特徴なんてないから」
少し悲観的な意見をした彼女の、ピンクの髪留めを見る。
それは立派な特徴ではないのか、なんて思ったが、フードが言った通り、僕たちは、この中だけでの付き合いだ。呼び方以外は、知らなくてもいいことばかり。
「じゃあ『名無し』、でいいんじゃない?」
「――。それで、いいわ」
静寂の中、肯定も否定もしない様で、彼女の名が決まった。
「じゃあもう一度おさらいだ。俺がフード、そこのでかいのがゴリラ」
「そん名前で呼ぶな……」
「で、仕切り役のお前がフォーゲット、清楚ちゃんはメガネ、で、君が名無し。――いいね?」
全員、同じタイミングでうなずく。
そして、直後。
『時間よ~。お休みなさーい!』
意識は彼方へと飛んでいった。