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5 気狂い(?)

 そこにいたのは、明らかに体育会系の男だった。白のタンクトップを着て、そこから、いい加減に焼けた腕や顔、足が出ている。

 男と僕は向き合う形で、当分動けなかった。

 相手も僕も、驚いたからだろう。――意味は違えど。


「なんだなんだ……?」


 そこに、他の者の声がした。聞いたことのない声。それは床から。つまり――転がっていた人のうちの、一人。

 二人からしたら、僕は不審者そのものなのだろう。――残念ながら、打開策が浮かばない。ここで攻撃を仕掛けると、明らかな不信感を抱かせてしまうし、動かないとしても――何を思われるか分からない。

つまり――打つ手が一つも思い浮かばない。


「おいおい。――怪しい行動をとったらどうなるか、分かってるよな?」


 後から起きた――妙に落ち着いている男が、僕にそう言った。


「まずはその――机? から手を放して」


 手の先にある机を見ながら、物音をたてないようにゆっくりと降ろす。


「じゃあ、何をしようとしていたか――特に期待はしていないが、話してくれるかな?」


 顔では笑顔を装っているのだろう、冷たい声だった。


「な、にも……机を運ぼうとしていただけだ」


 できる限り、情報を少なくして、怪しいことを口走らないように。


「ほうほう……――で、何のために?」


「――。この館に、こちらから干渉することができるのか、それを確かめるために」


 事実を簡潔に伝える。


「――。よく話が見えてこないなぁ。もう少し詳しく、と言いたいところだけれど」


『あの~ぅ、お話中しっつれー!』


「!」


 ハッとして周りを見渡した。

 昨日の声の主!

 どこにもスピーカーなんてない。それは確認したはずなのに。

 手のほうから、声が聞こえる。

 机を見やる。まさか。

 ――その、まさかだった。

 机には、小さいスピーカーが二つ、あった。


『あっれれー? 昨日ぶりなのにもっしかして、驚いてやんの~?』


 顔がゆがむのが分かる。


『しっかし、このアタシが直々に出てきてやったんだから、もっと喜べよぅ☆ なーんか興ざめするわぁ~』


「――用件は……」


『へ? んだって!? 聞っこえないんですけど~!?』


「まま、落ち着いて」


『ア?』


 険悪な雰囲気。


『マアいいや――で、アンタらおっそいからアタシが直々にこれからの予定を教えてやろうと思ったわけですよぅ。感謝しろ感謝』


 ぱちぱち~、とスピーカー越しに聞こえる。やはり、どこまでも減らず口な野郎だ。


『で、予定だけど~。えとえと……全員起きたら、十分間じこしょーかいターイムぅ!! おおっ、楽しみですなぁ!』


「……」


『んでんで、その後、二度目のゲームが始まりまーす! 内容は――おっ楽しみに~!』


 プツン。

 音がなくなる。

 僕たちはお互いの顔を見て。


「とりあえず自己紹介と言っていたが――気になる点がありすぎる」


 ――答えてもらおおうか。それを目で、僕に訴えてくる。

 分かっている。その方が効率がいいことも。

 頷き返し、話が進む。


「まず――『二度目のゲーム』と『昨日』っていうのが関係しているのは分かった。何があったか、教えてくれないか……?」


 きっと言ったところで信じてはもらえないだろう。だが、今、そんなことを言っている場合ではないのだ。

 得体のしれないものが、また迫っているのだ。そのことが分かるのは、僕と――未だ眠ったままの彼女だけ。


「――分かった」


 しばしの沈黙を置いて、僕は口を開く。


「まず、昨日あったこと。これは大きく言うと――君たちの命に関わったゲームだった」


「ほぅ……」


「ま、待ってくれよ!」


 タンクトップ男が急に詰め寄ってきた。その顔は焦りに染まっていたのは、言うまでもない。


「は、話が見えてこん! 何、どういうことだ!? 昨日、何があった!?」


「いったん落ち着いてくれ」


「おいゴリラ」


「ゴリッ……!?」


 そう言われた瞬間、そのタンクトップ男はしゅんと、消された火のようになった。――そんなにショックだったのだろうか。


「ま、まあ本題に戻ろう。――で、昨日行われたゲーム名は、そうだな、一言で言うなら――『人間選別ゲーム』っていうのが、正しいと思う」


 二人が息を飲んだのが分かる。

 そうなるに決まっている。僕だってそんなこと言われたら、きっとそうしているし、そうなっている。


「ただ聞いてくれ! ――その中の五人は――いや、五体のほうが正しいんだろうな……人形が紛れていたんだ」


「何で分かったんだ?」


「脈を測った。その結果、そうだと予想した。もしかしたら――」


 死んでいたのかもしれない、なんてことは言わなくても通じた。

 もし死んでいたのだとすると、その可能性が自分にも……。それは僕も例外ではない。


「なるほどな……――まあ現状、信じるしかない、といったところだな。その真偽を判断するにはちょいと足らなすぎる」


「信じてもらえてなによりだ」


 ほっと、心の中で胸をなでおろす。実に心臓に悪い。


「ところでよぉ」


 タンクトップ男が不意に、僕と彼の間から体を乗り出した。


「あのさぁ――あの嬢ちゃんらに、その話をせにゃならんのか……?」


「いや……しなくても」


「いいんじゃないか?」


 特に必要な話でもないし。しかも今眠っている一人は当事者だ。それに、これまでを全て話したらきっと、十分の中にその話の必要性はない、というのだろう。


「じゃあ、後はどうする?」


「まず! ――名前がわからんと何もできんじゃろに!」


 ――。

 沈黙が生まれる。

 正論だ。僕たちは今まで素性を明かさずに話した。それは、普通の人にとっては、不気味に思えてしかたがない。

 そうして、僕達だけで先行して、自己紹介をすることとなった。

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