おままごと(光という癒し)
「パぁパ。まんま」
そう言って光がビーチチェア脇のミニテーブルの上に置いたのは、泥の団子三つだった。來との遊びで作った泥団子を、おままごとよろしく食事として提供してくれたのだろう。
それがまた可愛くて、俺はその泥団子を手に取り、
「美味しそうだな。いただきます。あ~ん。パクッ」
と食べるふりをしてみせた。すると光が照れくさそうにもじもじとしながら笑ってた。
ああ、いいなあ。こういう感じ。
妹は小さい頃から体が弱くてあまりこういう遊びもできなかった。もっとも、俺も子供だったし男だからおままごとなんて恥ずかしくてできなかったかもしれないが。なのに、自分の娘が相手となればできてしまう。子供がいるというのはこういうことなのかなとも思ってしまった。
「楽しそうですね、マスター」
背後からエレクシアに声を掛けられ、急に素に戻ってしまって「は、はは…」と苦笑いしながら振り返る。しかし俺を見るエレクシアの表情が、以前のように冷淡なものではなくなってる気がした。どちらかと言えば、穏やかなような…?
それは、もしかすると俺の方の捉え方の違いかもしれない。エレクシアは以前からずっと同じ表情をしてるだけかもしれない。彼女を見る俺の気分で、印象が変わっているだけなのかもしれない。彼女はただ、俺を穏やかに見守ってくれてただけなのかもな。
「マぁマ、マぁマ」
自分に向かって歩いてくる光を、エレクシアは躊躇うことなく抱き上げた。泥だらけなことも気にすることなく。
「はい、ママはここですよ」
抱き上げた光に向かってそう言った時の表情も、とても穏やかな、まぎれもなく<母親>という感じのそれだった。見た目が違い過ぎて自分の子だと認識できなかったのか密には育ててもらえなかった光だが、こうやってエレクシアを母親と認識して健やかに育っていた。
だがその分、やっぱり完全に<人間の子供>として育っている気がする。同じ母親から生まれた誉とさえ似ても似つかず、普通に服を着て、絵本を読むのが好きな、人間の子供だった。
食事の時も、ただ一人、スプーンを使うし、生の生き物は食べようとしなかった。離乳食も、実の母親である密が噛み砕いたものを口移しで誉に与えていたのに対して、セシリアが用意してくれた離乳食メニューを食べていた。
お昼寝も俺の傍で寝るし、風呂は俺と一緒に入りたがるし、夜も俺が傍にいないと泣いたりもする。
なんか、こんな可愛い生き物がいるなんて、知らなかった気がするよ。




