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相互理解(いや、現実問題として無理なものは無理)

ロボットであるエレクシアは、手加減はしても決して油断はしない。あくまでその場その場での最適解を導き出すだけだ。


だから、フィクションにありがちな、


『手加減をすることで逆にピンチを招く』


ということはない。ピンチになりそうであれば、その時には容赦はしない。


なので、エレクシアが間に合った時点で俺は何も心配してはいなかった。




ところで、クモ人間の、人間の体にも見える部分は、彼らにとっての<頭>であって、人間の体としての機能はほとんど備わっていないと推測されている。


人間の頭に見える部分に脳に相当する器官があると思われ、また、人間の目に見える部分が実際に目の役目をして、人間の耳に見える部分で音を聞き、人間の口に見える部分で摂食してるのは確かだが、それ以外の重要な器官はそこには存在しないのも、エレクシアが取得したバイタルサインを後程解析したことでほぼ間違いないと確認された。心臓の鼓動は聞こえるものの、他の臓器が確実に働いている音が、その部分からは聞こえてこないのだ。


クモのような本体側にも心臓があり、そちらがクモ人間としての心臓である。人間体の方のそれは補助的な役目をしている可能性があるとしても、人間の体に見える部分はやはりほとんど<人間のようにも見える造形>なだけでしかないんだろうな。


その所為か、同じく昆虫の特徴を持つ(じん)達からは感じられる、僅かに残された<人間性>のようなものも、クモ人間からは感じ取れなかった。


一方、(じん)やその娘の(めい)は、肉体的にはあくまで<昆虫の特徴を取り入れた人間>のそれであり、肉体的な感覚も人間と共通する部分が多いのに比べ、クモ人間には全くそれがない。乳房や外性器に見える部分も恐らく機能しておらず、まだ確認はされていないが卵生である可能性が極めて高い。胴体内の空洞は、卵をそこで孵して子供の形で出産する為の空間であり、サメなどにもみられる<卵胎生>ではないかと俺は推測してたりもする。


そう、クモ人間は、(じん)達とは逆に、<外見の一部に人間の特徴を取り入れた昆虫>であって、その行動パターンはそれこそ完全に昆虫のそれであり、人間っぽい情動は欠片ほども存在しないのである。だから<クモ人間>という表現は正しくないかもしれない。


(じん)達とも人間としての感覚を共有するのは困難だと実感してるが、それ以上に困難、いや、現実問題として不可能だろう。人間と昆虫が相互理解しようとするようなものだからな。


俺が彼らを『ヤバい』と認識してるのは、そういう意味でもある。なにしろ大きさ約三メートルの昆虫なわけだし。戦闘モードのエレクシアが相手ではさすがに敵わなくても、生物としては破格の強さだろう。しかも本来なら昆虫としては大きすぎて自壊しかねないあの巨体を維持できるのは、脊椎動物としての肉体の構造も取り入れてるからかもしれない。脊椎動物の<骨格>に相当するものがあるのだ。その上で昆虫的な外骨格も有している。更に人間並みの<脳>に該当するものも備えている。とんでもない生き物だと言えるだろう。


これが、あの不定形生物によって人間と昆虫とそれ以外の何かがキメラ化されたことで生み出されたのだとしたら、実に恐ろしいと思わなくもない。冷静に考えれば巨大化しすぎて昆虫としてのメリットの多くを失い、生物としてここから先も進化するには行き詰まりを感じさせるものの、単純な<強さ>という意味では究極の姿の一種とも思えたりはする。


が、エレクシアとクモ人間との戦いそのものは、呆気ない幕切れを迎えていた。自身の全力でもってしても敵わないと察したのか、一目散に逃げ出したのである。


まあその辺りの切り替えの早さも、さすが野生ということなのだろう。人間のようにプライドに命を賭けたりしないだろうからな。



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