徒花(クモ人間についての考察)
少なくともこの密林がある地域の生態系の頂点は、どうやらあの不定形生物だと思われる。次いでクモ人間だろうか。
クモ人間の生態についてはその危険度も含めて興味がある。共喰いが実際に確認されているのは現時点ではこのクモ人間だけだ。刃の種族もそれをする可能性は高そうだが、そもそも個体数が少ないらしくまだ数体しか確認できていない。
クモ人間も、三メートル近いその巨体の所為で目立つから発見が容易だというだけで個体数はそう多くない。食欲がすごいので、個体数が多いとあの調子で獲物を狩っていてはすぐに食糧不足になることが容易に推測される。共喰いも、個体数の調整に一役買ってるのかもしれない。
ちなみに、外見上は人間体の部分が四肢でクモを思わせる体の部分が六肢なので合わせて十肢ということになるのだが、どうやら人間体の部分の手足に見えるものは触角として機能しているらしく、実際には六肢ということになるのだろうか。
また、人間体の部分は<頭>だと思われる。しかも、クモの頭にも見える部分から脚が生えているのでそこが<胸>なのだろう。つまり、クモに似ているが厳密には<昆虫>の特徴を持っていることが分かっている。
共喰いで食われた個体を撮影した映像で確認されたのだが、大きな胴体部は殆どが空洞で、何の為にあるのかよく分からない謎の空間になっていた。その為、体の大きさの割には体重は意外と軽く、二百キロくらいしかないようだ。サイズ的には一トン近くあってもおかしくなさそうにも見えるんだが。
無駄に大きな体とそれを維持する為の大食らい。正直、進化の袋小路に入り込んでる感はある。ひょっとすると進化の可能性の徒花だったりするのだろうか。それを思うと哀れさもあるな。
なお、クモ人間に並んで生態系の上位に来ていると思われるのが、俺がオオカミ竜と仮に名付けた、恐竜に似た肉食の獣である。
名前の通り、オオカミっぽい印象のある毛の生えた恐竜といった感じの生き物なんだが、オオカミのように群れを作り、河から離れた草原においてはこいつが最上位の存在のようだ。
以前触れた<オオカミ人間>は、密林と草原の境辺りに住んでいるので、生息域は重なっていないと思われる。
オオカミ竜については、イメージとしてはヴェロキラプトルという恐竜に毛が生えた感じだろうか。伏も映像を見た時には怯えていた。彼女にとっては不定形生物に次いで恐怖の対象なんだろう。
草原には、川辺にいたサイゾウの亜種と思しき大型の動物の姿もあった。姿もサイゾウに似てるので、ソウゲンサイゾウと仮称してる。普段は大人しいようだが群れを作って暮らしていて、オオカミ竜に襲われると群れ全体で立ち向かう勇猛さもあるらしい。




