誉(とにかくやんちゃ坊主としか言いようがない)
誉については、とにかく<やんちゃ坊主>の一言だった。常に落ち着きなく動き回って家の中を走り回る壁を上る柱を上る屋根に上って滑り降りて飛び付く。もう、無茶苦茶だ。まさに動物園で見るサルの子供と同じだよ。
で、今の一番のマイブームは、<パパ上り>らしい。俺が立ってようが座ってようが上ってきて頭にしがみつき、
「うぉ~っっ!!」
と叫ぶのだ。
実は、密林の中から時々、似たような叫び声が聞こえることがある。どうやら縄張りを主張する為の行動と推測されていた。まだ一歳にもならないのに既に本能に従って自分の縄張りを主張し始めてるようだ。
が、それをすると密が飛んできて首根っこをひっつかまえて地面に押し付けて首の後ろ辺りを噛む真似をした。最初は驚いたが、これが密達にとっての教育なのだと思われる。この群れのボスは俺であり、この縄張りは俺のものなので、子供がそれを主張するというのは許されない行為らしい。
本来はボスである俺がやることらしいんだが、何せ捕まえようとしても全く追いつけない。密と同じことができないのだ。なのでしかたなく密がやってくれてる状態だった。
人間なら言葉で理解できるまで知能が発達し、自身の行動の意味も理解できるようになるからここまでやるとやりすぎになるが、彼女らの場合は人間のような形では物事を理解できないので、こういう形が必要になるということだ。
俺は別に、子供達を<人間>として育てるつもりはない。彼らには彼らの生き方がある。俺はどうせ、百年もつかどうかって感じでいなくなる。そうなれば彼らはまた、野生の中で生きていくことになるからな。あまり人間っぽくしようとは思わないんだ。
ただ同時に、光はその姿も含めて野生としては生きていけないだろう。しかも、老化抑制処置も受けられない。つまり、長くても人間本来の寿命しか生きられないだろうということだ。恐らくこの環境では七十年も生きられれば長い方だ。もしかすると俺より先に寿命を迎えるかもしれない。
ここの自然の中では、光のような個体は淘汰される側である可能性が高い。
だからこそ俺は、俺がいる間だけでもこの子を大切にしてあげたいと思う。
もっとも俺がいなくなったらいなくなったでエレクシアやセシリアが面倒は見てくれるだろうがな。
と、誉の話をしていたというのにいつの間にか光の話になってしまってたな。それだけ俺が光のことを気にしてるということか。
…当然かもしれない。何しろ光からは、亡くなった俺の妹の面差しも感じられてしまうんだ。
何だかあの子が俺の下に帰ってきてくれたみたいな気がしてね。
名前も、あの子の<光莉>から取ったものだったからな……。




