明編 強者の生き方
正直、強い奴は強い奴で大変なんだなってすごく実感した。
明達のような生き方は俺にはできない。人間だからできないという以上に、やりたくない。性格的に俺には向いてない。
<強者の生き方>
なんて。
俺は凡庸で中庸な<モブ>でいい。多少搾取されることはあったとしても、それが自分が凡庸に生きていくことに必要であれば、別に構わない。
強者の生き方は疲れるよ。
だから素直に尊敬する。
『わざわざそんな大変な生き方するなんて』
ってね。
別に馬鹿にしてるわけでも皮肉でもないぞ。本気でそう思うだけだ。
とは言いつつ、ここでの俺は、エレクシアやイレーネを従えた<強者>の立場ではあるんだよな。その気になればこの台地の上についてはほぼ蹂躙できるだろう。台地の麓に広がる鵺竜の世界だと、正直、エレクシアとイレーネとメイフェアだけでは、電磁加速質量砲を使っても火力不足かもしれないが。
なにしろ、電磁加速質量砲はメンテナンスが面倒で、今のコーネリアス号の工作室でのそれでは限界があるからな。百回は使えないという試算も出てる。
ここで手に入る材料で火薬でも作って武器を生産すればとは思うものの、
『そんなことをしてなんになる?』
っていうそもそも論にぶち当たるな。
俺は別に支配者になんかなりたいとも思わないし。
そうだ。大前提として性格的に、強者の生き方には向いてないんだ。
だから、生粋の強者として生きられる明達のことをすごいと思えるんだよ。
俺にはできない生き方だから。
なんてことを思ってる間にも毎日は過ぎていく。
明も丈も今日も元気だ。
一方、鋭もずっと以前からここに住んでたみたいに馴染んでる。
あと、俺の家に添わせる形で、鋭のために部屋を作った。深のためのそれと同じく、掘っ立て小屋のような簡易なそれだが、光達の家からは見えない位置に作って、少しでも順を安心させてやりたかったんだ。
すると鋭もその部屋を気に入ってくれたのか、狩りに出る時以外はそこにこもるようになった。しかも、狩りに出る時も光達の家からは見えない方向に歩いて行く。
まあ、単に密林への最短ルートを通ってるだけなんだとは思う。さすがに順を気遣ってくれてるとまでは思わないものの、結果としてはそれでいいだろう。
鋭は刃とは別の形で俺達の群れに馴染んでる。感覚がかなり人間寄りなんだろうな。あくまでマンティアンとしては、だが。
こうして早々に俺達の群れに迎えられたのは良かった。鋭はマンティアンとしてはやっぱり優しすぎる。
この子にも、<強者の生き方>はできないだろうな。




