明編 弱肉強食
新暦〇〇二八年十一月六日。
人間の世界では、<感情の衝突>がやはり大きな課題なんだろう。人間の世界でのトラブルの多くが突き詰めれば感情に起因しているだろうからな。
その点、明達マンティアンはとにかくシンプルだ。迫のような例もあるにはあるが、基本的には、
『強い奴が全てを手にする』
って形だからな。
ただしそれは、
『強い奴も衰えれば全てを失う』
ということとセットでもあるけどな。
<弱肉強食>という言葉はあるものの、実は強者だからって安泰というわけじゃなく、強者同士での優劣もあるし、どんなに強い奴でも老いて衰えれば新しい強者に駆逐される運命にあるんだって、マンティアンを見てるとよく分かる。
明や角はまさに今が全盛なので、とにかく強い。
しかし、その強さも永久に維持できるわけじゃない。いずれは若くて強いマンティアンに負けるだろう。そうなる前にできれば鋭のように俺の<群れ>に加わって欲しいとは思うものの、明はともかく角は難しいだろうな。
あいつは生粋のマンティアンだ。人間と馴れ合うようなことはそれこそないだろうし、刃のように俺を認めてくれるわけでもないだろう。
いや、ひょっとしたら刃と同じく自分よりはるかに強いエレクシアをエレクシアを従えているということで俺を認めてくれたりってことがないとは言えないにしても、それを期待するのは無謀だと思う。
そもそも、刃は雌として雄である俺を認めてくれたんだから、同じ雄同士じゃあ、それも望み薄か。
加えて、刃が俺を認めてくれたのだって、彼女自身が<変わり者>だったっていうのが理由として大きいと、今なら分かる。
論理が飛躍してるんだ。
『自分より強いエレクシアを従えているんだから、強い』
っていう解釈をしてくれるのが、一般的じゃない。
そういう意味で言えば、迫に近いだろうか。迫も、
『自分を殺さなかったのは、自分の強さを認めてくれたということにいうことに違いない』
的な論理の飛躍を見せていたからな。
だから稀にそういう個体もいて、刃がたまたまそうだったんだろうな。
運が良かったんだ。そうじゃなかったら、下手をするとエレクシアに<処分>されていた可能性もある。
まあ、俺が命じない限りは勝手にそんなことしないとは思うものの、万が一、俺の命が本当に危なかったりしたらその限りじゃなかったしな。
なんと言うか、紙一重の綱渡り状態だったっていうわけか。
ハーレムを築くのも楽じゃない。
むしろ、同じことをもう一度しろと言われたら、
『勘弁してください』
って言いたいよ。




