誉編 見送り
＜生存競争＞とは言いつつ、普通に考えればただ一方的な殺戮になることが分かってる今回の作戦に、俺は高揚した気分にはなれなかった。むしろ後ろめたい気さえしていただろう。
だが、それでも俺はやる。
『エゴだ！』
と誹りを受けようとも、な。
「錬是様、ご武運を」
コンソールに固定したタブレット越しにメイフェアがそう声を掛けてくれたのは、正直、ちょっと気恥しかった。
少々芝居がかっててな。
でも、俺達がもし嶽を食い止められなかったら、誉達も危険に曝されるだろう。それを甘んじて受け入れることは俺にはできない。
誉達の力でどうにか対処できそうなことなら手出しするのは余計なお世話とも思うが、これはそういう次元の話じゃない。
これはある意味じゃ自然災害のようなものだ。しかも、人間の手で対処できる可能性のある。
可能性があるなら手をこまねいて見ているのも違うんじゃないかと思う。
どちらにしても生きる為にやることだ。綺麗事じゃ済まない。
『さあ、行くぞ。人間の力を見せてやる……！』
俺が改めて自分を鼓舞するためにそう考えた時、視界をよぎる影があった。
「……誉……？」
誉だった。蒼と命、轟と昴の姿もある。
「まさか、見送りに来てくれたのか……？」
思わず呟いた俺に、
「どうやらそのようですね。メイフェアが概要を誉様にお伝えしたところ、移動を始めたそうなので」
とエレクシアが答えてくれる。
「まったく……別に言わなくてもよかったのに……」
なるほど、
『誉達には言わなくていい』
とメイフェアには釘を刺しておかなかったから、感情（のようなもの）を備えた彼女は人間の感情に倣って気を遣ってくれたんだろう。
それを責めようとは決して思わないが、人間の感情というのは時に要らぬお節介というものを生むと改めて実感したよ。
が、子供達も連れた誉達の姿に、
『こいつらを喪いたくはないな……』
という気持ちが改めて湧きあがる。
そうだ。その為に俺は行くんだ。躊躇ってなどいられない。俺が躊躇すれば次に死ぬのはこいつらかもしれない。
……まあ、ヤバくなったらとっとと逃げるかもしれないけどな。
ただそれでも、せっかくの今の餌場を失うことになるかもしれないし、中には逃げ遅れたりする者もいるかもしれない。そしてそれは、保や翠、亨、旭、薫達、俺の孫かもしれない。
それを甘んじて受け入れられるほど俺は物分かりのいい人間でも、諦めの早い人間でもないからな。
やれることはさせてもらうさ。
