誉編 電磁加速質量砲
蛟の時に<電磁加速質量砲>を使わなかったのは、正直、まさかそこまでの相手だとは思わなかったというのもある。その所為でイレーネを危険に曝してしまったわけで、今回は同じ失敗をするわけにはいかない。
遠距離からの強力な一撃で片を付けるのが狙いだ。だからこそ、弾速が必要だ。それが遅いと、狙いを付けて発射してから着弾までの時間が長くなって、その間に目標が動いてしまったりして狙いが外れる可能性が高くなるし。
その点、大気圏内での初速で秒速六キロを超える電磁加速質量砲はうってつけだ。生物相手ならもうそれだけで必殺の威力もある。
「この<電磁加速質量砲>は、特別な許可で民間に払い下げられた旧式の為、連射が利きません。次弾の発射準備が整うまで三秒のタイムラグがあります。また、砲身の冷却効率が悪く、また、エネルギー効率も当時の最新のものにくらべ大きく劣ることもあり、メンテナンスを受けなければ連続で六発の発射が限界でしょう」
イレーネが<電磁加速質量砲>説明を淡々と行うのを聞く。
この手の武器は、軍と協力関係にある民間企業には払い下げられたりすることもあるらしいが、その際には軍にとって脅威にならないようにする為に、本格的な軍事作戦では使い物にならないほどにデチューンされてから引き渡されるらしいな。
宇宙用の戦闘艦に搭載されるような大型のものなら弾速も秒速百キロを超えるものすらあるらしいが、大気圏内でそんなものをぶっ放したら衝撃波だけで半径数キロの範囲の建物は破壊されて生き物は死滅しかねないくらいに大変なことになるから、さすがに抑えられているし、払い下げ品はさらに威力を下げられているそうだ。
まあ、俺達の場合は、あくまで猛獣相手に自分達の身を守る為の護身用なわけで、そこまでの性能は必要ないから関係ないだろう。
どれほど怪獣じみてると言っても、相手は動物だ。向こうからは知覚できない遠距離から狙撃すれば、それで終わる。
……筈だ。
しかしエレクシアが言うには、
「正直申し上げて、あの不定形生物由来の動物につきましては不確定要素が多すぎて断定的なことは何一つ申し上げられません。この<電磁加速質量砲>を用いても九十パーセントの確率に留まるのはその為です。
あれが地球にかつて生息していたという恐竜であれば、限りなく百パーセントに近くなるのですが」
とのことだった。
そう。遠距離からの狙撃という形であれば、本来、まず間違いなく勝てる。
相手が普通の生き物であるなら。
しかし俺達は蛟という実例を知っている。あれと同じことが起こらないという保証は何もないからな。




