誉編 個
いずれこの惑星に出来上がるかもしれない<人間の世界>に想いを馳せつつ、保がレッド達と遊んでいた頃のことを思い出す。
こうしてボクサー竜に対する警戒心を失っていくのかと心配したりしたものの、成体になった保達を見ていると実はそうでもないようだ。
あくまで、
『レッド達は敵じゃない』
と認識してるだけで、他のボクサー竜のことはしっかりと警戒している。
おそらく、見た目以上に、自分に対して敵意や害意を向けているかどうかって形で判断しているようだ。
だから同じ見た目をしていても同じようには接しない。
この辺りは、自身の身を守る為にそういう敵意や害意といったものに対して敏感なことが影響してるんだろうな。
それについては、人間である俺も見倣わなくちゃいけない気がする。
種族とか人種とか、ついついそういう大きな括りで十把一絡げにして判断してしまいがちな部分を見直して、冷静に相手を判断する必要があると思うんだ。
あくまで<個>を見ると言うかな。
これは逆に、肩書とか背景とかの大きな括りで安易に相手を信用しないという意味でもある。
肩書や権威や相手の背景だけで信用してしまったりっていうことがあるのも人間ってやつだ。それで大きな失敗をしてしまうこともあるわけで。
そういうのも気を付けなくちゃいけないな。
あと、相手を侮らないというのもある。
ヒト蜘蛛の蛮の事例なんかがこれに当たるか。
ヒト蜘蛛そのものは、エレクシアやイレーネが警護についていてくれたら決して脅威じゃない。
しかし蛮のように個体によっては侮れない相手もいる。能力的にと言うか、執念深さ的な意味で。
あいつの執念深さは本当に尋常じゃない。
通常であれば知能は決して高くなく、それに伴って記憶力も決して高くなく、基本的には反射のみで生きてるような昆虫に近い生き物なんだが、蛮については例外もいいところだったな、ヒト蜘蛛という種の<常識>からは完全に外れてるんだ。
それを侮って他のヒト蜘蛛と同じように対処してたら思わぬ被害を出していたかもしれない。
『木を見て森を見ず』
という言葉のように、細かい部分ばかりを見て全体を見渡さないというのもマズいが、逆に大きな括りに囚われて個別の事例を見ないというのもマズいと学んだよ。
その点では、保はしっかりしてると思う。結構やんちゃだった子供の頃の様子はすっかり鳴りを潜めてしまっておとなしくなって、性格的にボスになれる器じゃないかもしれないが、世襲制のリーダーは非常にリスクが高いと人間の歴史が教えてくれてる。
優秀なリーダーの子が同じく優秀なリーダーになれるとは限らないっていうことをな。
これも、優秀なリーダーの血脈であるという背景じゃなく、<個>を見ないといけないということだな。