誉編 碧 その5
蒼は、一見するといかにもな美少女風で、群れの雄からとてもモテた。静が嫌われていたのは、そんな蒼をイジメていたからだという面もあったりする。
だが蒼は、その外見とは裏腹に、なかなかタフな性根を持った雌だった。静に追い回されても、それが終われば平然としてしたりもしたんだ。
今から思えば、そうやって自分をイジメさせることで静にガス抜きをさせてやっていたというのもあったんじゃないかっていう気さえしてくる。
その辺りが実際にはどうなのかは判然としないものの、少なくとも蒼自身は静のことをそれほど嫌ってはいないのは確かだろう。
きちんと毛繕いをしてやったりもするし。しかも脅されてやらされているという様子はまったくない。
となればそれは、彼女の＜器＞と考えてもいいんだろうな。
正直、そういう部分では密さえ敵わない気がする。密も決して可愛いだけの女の子ってわけじゃなかったんだが。
だがそれ故に、蒼が誉を選んでくれたことには感謝してる。あいつがパパニアンの社会で生きていけてるのは、間違いなく彼女のおかげもあると思うんだ。
いくらメイフェアが優秀でも、パパニアンじゃないからな。
そして今、蒼は誉のパートナーとして、彼を強力に支えてくれてる。メイフェアではフォローしきれない部分まで。
「誉様は本当に素晴らしい方を娶ることができました。これもひとえに誉様の徳のなせる業ですね」
メイフェアが自分のことのように嬉しそうに報告してくる。
いや、メイフェアにとってはまさに＜自分のこと＞なのか。
彼女が嬉しいのならいいことだ。それに俺も嬉しい。
『誉様の徳のなせる業』というのはまさにその通りだろうし。あいつの人柄が（正確には＜人＞じゃないが）彼女を魅了したんだろうからな。父親としても誇らしいよ。
密も誇りに思ってくれてるだろうか。それとも、『いい嫁を貰った』と安心してるだろうか。
まあその辺は単なる人間の＜感傷＞に過ぎないかもしれないが、それでも彼女の息子がこんなに立派になって、素晴らしい＜妻＞を見付けてくれたんだ。素直に誇ってもいいことなんじゃないかな。
密の命がこうやって繋がってる。彼女がいたからこそ誉もいる。その事実が愛おしい。
「蒼のこともよろしく頼む。誉共々引き立ててやってくれ。もちろん、静と命のこともな」
「はい！ もちろんです！ 誉様が愛してらっしゃる方は私にとっても大切な人ですから」
今回はたまたま近くにドローンがいたのでそのカメラを通じての通信だったが、画面の中、メイフェアの背後に、まるで召使いの様子を確かめるかのように蒼の姿が映りこんでいた。
やっぱり抜け目ないなあ。
