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誉編 メイフェアの日常 その8

こうしてメイフェアは、(ほまれ)の群れを影ながら守るという役目をしっかりと果たしてくれている。


夕方、縄張りの見回りに出ていた若い雄達の小グループが次々と帰還し、皆で食事の時間となった。


ここまで、メイフェアがまともに言葉を交わしたのは、俺くらいのものだ。同じロボット同士であるエレクシアとはデータ通信でやり取りするので、<会話>という形ではないし。


食事の時も、皆からはあまり目に入らないところで、彼女は待機する。


すると、子供が一人、メイフェアのところに近付いてきた。そして手にした果実を彼女に差し出す。


「んあ…」


『あげる』と、その子は言ってくれていたのがメイフェアには分かった。けれど、


「ありがとうございます」


と(パパニアンの言葉で)応えながら差し出した手を、バシッとはたく者がいた。その子の母親であるパパニアンの雌だった。


母親は、メイフェアに餌を渡そうとした子供の手や足をはたきながら、ぐいぐいと引っ張って、皆のところへと戻っていく。


これが、この群れにおける彼女の現実だった。普通のパパニアンにとってはどこまで行っても不気味な存在であるメイフェアは、群れを外敵から守ってくれる守護者であると同時に、忌むべき異形のモノでもあるのだろう。


「……」


どこか寂しそうな表情で母子を見送った彼女の下に、また別のパパニアンが近付いてきた。


引き締まった精悍な顔つきで、威厳すら感じさせる雰囲気を纏った雄だった。


(ほまれ)だ。(ほまれ)がメイフェアに近付いてきたのである。


「うあ、あ……」


『ありがとう』という意味の声を掛け、(ほまれ)がメイフェアの(ウイッグ)を撫でる。彼なりに気遣ってくれてるんだな。そしてボスであり、メイフェアを従属させている彼がそうやって彼女に近付く分には、誰も口出しはしない。


それがまた、彼女の複雑な立場を示していると言えるのかもしれない。


しかし、それでも彼女は満たされていた。


主人である(ほまれ)がそうやって気遣ってくれるだけでも十分に。


いくら感情(のようなもの)を実装されているとは言えども彼女はあくまでロボットである。人間ほどは多くを望むこともない。


(ほまれ)様に『ありがとう』と言ってもらえました♡」


今日一日の報告をする時、『えへへ♡』という感じで笑顔を見せながら、彼女は嬉しそうにタブレット越しにそう言った。


もっとも、タブレットに表示されているのは彼女の姿そのものではなく、彼女の姿を正確に再現した<アバター>ではあるが。


けれど同時に、彼女の感情も正確に再現しているので、その笑顔は間違いなくメイフェア自身の笑顔なのだった。



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