今はこうして(彼女に……)
『スリルを楽しむ』
なんていうことをするのも、人間以外の動物にはごく稀にしか見られないものらしい。野生の生き物にとって<危険>とは本来回避するべきものであって、決して楽しむような部類のものじゃないだろうし。
人間以外の動物でも、知能の高いものの中には確かにスリルを楽しんでいるような<遊び>をするものもいるし、ボノボ人間の中にも、ボクサー竜あたりをわざとからかって遊んでいるような振る舞いをする個体がいるのは確認されているが、それも結局、天敵を相手に生き延びる術を学ぶ為にやってるという実利があってのことのような気はする。
ああそうか、それで考えたら人間がスリルを求めるのも、『危険への対処法を実地で学ばなければ』という本能がそれをさせると推測することもできるのか。
が、だからと言ってそれで実際に命を落としていては意味がないわけで、『スリルを楽しむこと』を目的に本当に命を懸けるのはやっぱり分からん。
ここじゃそんなことしなくても、毎日が命の危険に曝されている訳だからな。
順が怪我をしたのだって、結局はそれだし。
などと、伏の墓の前でそんなことを考えてる余裕があるのは、密、が癒してくれてるからだろうって気がする。
彼女がもたれかかった肩に感じるぬくもりと重み。そして鼓動。
それらが失われることこそが、<死>。
「―――――!」
改めてそんなことを思った瞬間、胸がぐっと鷲掴みにされるような感覚があった。
刃のそれも、鷹のそれも、伏のそれも、もう二度と感じ取ることはできないんだっていう実感が込み上げてきて、突然、涙が溢れた。
そうだ…彼女らはもういない……いないんだ……
そして、今、俺が触れている密もいつかは……
はは……なんだ、泣けなかったのは実感がなかっただけじゃないか……
いや、そんなこと、刃を亡くした時には分かってたはずなんだが、具体的に実感させられるとこうなるんだな……
「う…く……っ」
「……あぅ…」
歯を食いしばりながらボロボロと涙をこぼす俺を、密がそっと抱き締めてくれた。俺が、彼女が不安そうにしてたりするとそうしてたのを真似るように。
それは、彼女がボノボ人間だからというのもあるのかもしれない。精神的に不安定になっている仲間をそんな風に抱き締めたりするのは、ボノボ人間にも見られる行動だからな。
ああ……でも、そんな理屈はどうでもいい……
今はこうして彼女に抱き締められていたいんだ……