とうとう一人に(なっちまったな)
伏の臨終と葬儀に立ち会えなかった自分を責めた光も落ち着き、俺は改めて伏の墓の前でまた手酌で酒をちびちびとやりながら話しかけてた。
「光がごめんなさいだってさ。あの子はホントに真面目だよな。伏も別に怒ってないだろ?」
もちろん返事が返ってくるわけじゃないが、こうしてると落ち着くんだ。
「刃はどう思う? 性格的には刃に似てる気がするんだよな」
とか、
「鷹も考えすぎだと思うだろ? でも、それがあの子のいいところでもあるんだよな」
とか、とにかく思ったことを口にする。
知らない人間が見たら墓に向かって独り言を延々としゃべってる危ない奴にも見えるだろう。
でも、そこへ、
「うあ……」
って声を掛けながら密が来た。
「密も交じるか?」
訊くまでもなく、彼女は俺に寄り添うように座ってきた。そして伏達の墓を見る、
葬儀の最中、俺と一緒にいたから、伏達がここに眠ってることは分かってると思う。だから彼女も伏達の墓を見詰めてるのかもしれない。
「とうとう一人になっちまったな。密。これからは俺を独り占めできるぞ」
冗談めかしてそう言ってみたが、彼女はまったくそれを喜んでる様子はなかった。
ここでもし、彼女が喜んでるような態度を見せたら、俺はきっと複雑な気分になってたんだろうな。
人間って本当に勝手な生き物だよ。死者を悼む様子を見せなかっただけで腹を立てるとか。
ただ、そう感じてしまうことを無理にやめさせるのも違うんだろうなとは思う。
死者を悼んでないように見えることに腹を立てて責め立てるなんてのは、両親の葬儀の際に泣かなかった俺を『薄情な子だね』となじった親戚と同じになってしまうだろうが、だからと言って、口や態度には出さずにそう思ってしまうことまで非難するのもおかしい気がする。そんなことをしたら結局、
『自分の思い通りにならないことが気に入らなくて文句を言う』
ってことになってしまうだろうからな。
そうだ。それを面と向かって口にすれば相手を傷付けることになるにしても、ただ思ってるだけなら誰に文句を言われる筋合いでもない。
口に出さず、ただ思っているだけなら。
もしそれを口にするなら、自分が誰かから同じように言われることも覚悟しなけりゃいけないだろう。自分が言うのはいいが、他人が言うのは許さないなんてのは、身勝手の極みだろうし。
ただ、意見として述べるのなら、言い方は気を付けたいよな。
せめてその程度の気遣いができるのが人間ってものだろうし。
『人間は動物とは違う』と言うのなら、やっぱり気遣いくらいできなきゃ『動物とは違う』なんて言えない気もするんだよ。