表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

420/2932

順の変化(これはこれは)

さらに淡々と、毎日は平穏に過ぎていき、あっという間に一年以上の月日が流れた。


それでも、僅かに変化はある。


「おと…さん。いてき、あす」


そんな風にたどたどしく話しかけてきたのは、(じゅん)だった。(じゅん)が、言葉を話してるんだ。


「可能性としてはゼロではないとは思っていましたが、まさか本当に、片言とは言えここまで喋れるとは……!」


(じゅん)が初めて俺達の前で言葉らしい言葉を発した時、シモーヌは感嘆の声を上げた。


少なくとも俺よりは知識のある彼女には、それがどれほど容易ならざることか分かってしまっていたんだ。


それは、(ひかり)(あかり)、二人の根気強い努力がもたらしたものだっただろう。


と言っても、二人も実際に(じゅん)が喋れるようになるとまでは思っていなかったらしいが。


「いや~、やってみるもんですな」


とは、(あかり)の弁。


「人間の言葉は喋れなくても、私には(じゅん)の言ってることは少しなら分かるから」


というのは(ひかり)の弁。


そう。元々、(ひかり)(あかり)も、(じゅん)の言ってることはある程度分かるから、意思疎通についてはそんなに問題じゃなかったんだ。だから焦る必要もなく、ただ遊びのようにして(じゅん)に人間の言葉を教えてやることができてたようだ。


(じゅん)にしても、楽しく学ぶことができてたから素直に頭に入ってきたんだろうな。


言語野が急速に発達する乳幼児の時期に覚えないと言葉ってのは身に付きにくいらしいが、大人になってからも新しい言語を学ぶことは不可能じゃないし、ましてやボノボ人間(パパニアン)には、非常に簡潔とはいえ言語にあたるものがあって、しかもそれは群れごとに微妙に違っているから、<この群れ特有の言語>として、(じゅん)も受け入れることができたというのもあるのかもしれない。


いずれにせよ、いくらかでも人間の言葉を話すようになったことで、(じゅん)はますます人間らしくなってきている。


もっとも、(ひかり)への熱愛アピールも以前に比べれば格段に減ったとはいえ気持ちが高まってくると抑えが効かないらしく、以前よりもさらに大きくがっしりとしてきた体で跳び回るものだから、まあ家が傷む傷む。


しかし、今の家は本当の仮設の小屋同然のそれだから音が周囲に響く響く。で、やり過ぎると、(ほむら)に、


「五月蠅い!」


とばかりに、


「があっ!!」


と吠えられるので、シュンとなってしまうことも多いが。この辺りは先輩による後輩への<指導>なのかもしれない。


人間が大声で怒鳴るとパワハラにもなりかねないものの、この辺りはボノボ人間(パパニアン)の習性ということで大丈夫だろう。それに人間のパワハラ常習犯のようにしつこくもないしな。


パワハラで訴えられる人間はその辺りをわきまえてないんだろうなと思ったりもする。


『一喝する』というのは、文字通り、一発で簡潔に決めなきゃいけないんだろうな。


しつこいのは下策なのかもしれない。


いわゆる<切れキャラ>でありながら好かれている人間は、カラッとしてるところが好かれてたような気もするな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ