どちらかが逃げ出さなければ(行きつく先は)
倒した<獲物>は仲間に任せ、他のボクサー竜よりは明らかに一回り体の大きいそいつは、駆けつけてきた駿達を睨み付けて、獲物を奪われないようにする為かその前に立ちはだかり、
「ガアアッ!!」
と威嚇してきた。
その迫力に仲間達はたじろいだが、駿だけは怯むことなく
「ゴアッッ!!」
と応じ、一歩も引く様子を見せない。
『これはなかなか見応えがあるな』
などと、ドローンの映像を見ながらそんなことを思ってしまった。
陸号機も駆けつけたが、直接は手出しはしない。見守るだけだ。
しかも、アサシン竜の時もそうだったが、エレクシアやイレーネほどは素早く自在に動けないこともあり、援護が間に合わないことも少なくない。
だからどうしても犠牲が出る場合もある。
この時も俺はそれを覚悟した。
『駿……』
相手は強そうだ。体格的にも、大柄な駿と変わらない。
人間の格闘家の場合は、体格差を技術などで補ったりもするのだろうが、野生では体の大きさというのは強力なアドバンテージだ、体が大きい方が単純に力が強いことも多い。何より体重差は組み合った時に相手に与える圧力の差そのものになる。
体長三メートル、体重二百キロのヒト蜘蛛と、身長百六十センチ前後、体重七十キロほどのカマキリ人間とでは、スピードで圧倒的に勝るカマキリ人間が体格差を埋めても余りあるほどの<強さ>を持つものの、それはそもそも種族が違いその体の構造が違うことで生まれる速度の差なので、巨大な体と圧倒的な力で相手を押し潰す戦略を取ったヒト蜘蛛と、相手を翻弄する速度及び密林の緑に溶け込む隠密性という戦略を取ったカマキリ人間とではまず勝つ為の<手法>が違うんだ。
しかし同族同士となれば、体格差はそのまま強さの違いとなる場合も多い。
まあそういう意味では、今回の個体と体格的には駿もほぼ互角なのは幸いと言えるか。
駿自身もそれを承知しているのか、まったく怯む様子がない。
これが、後にパートナーとなる剛との出逢いなんだが、この時点ではまさか番うことになるとは思ってもみなかった。屈服させ、自分に従わなければ殺す的な方針の駿からすれば、およそ屈服しそうにないと見えた剛とでは、どちらかが尻尾を巻いて逃げ出さなければ、相手を殺すまで闘いをやめなさそうな印象しかなかったんだよな。
ある意味では、駿が雌だったということを忘れてたとも言えるかもしれない。