会敵(そっちだったか)
俺達はとにかく、穏やかな毎日を過ごすことを信条としてる。
だから変に波風が立たない。故に特別触れる必要のない平凡な毎日が続くんだ。
刃のことや鷹のことももっと触れてやればよかったかなとも思うが、毎日淡々と同じことを繰り返すだけの様子なんか、退屈なだけだろう?。
彼女達のことは、俺達が分かってたらいいだけだと思う。どうでもいい相手が亡くなったりしたところで凹んだり泣いたりしないもんな。
とは言え、俺達以外の生き物達からすればそんな事情は知ったことじゃない訳で、当然、アサシン竜も配慮なんかしてくれない。
「こっちに近付いてきてるな…」
ドローンのカメラに捉えられたその姿を確認しながら、俺はそう口にした。
「ですね…」
シモーヌも渋い顔だ。家族が危険に曝されるかもしれないということもそうだが、俺達に関わるということ自体、アサシン竜自身にとっても不幸の素だ。俺達に危険が及ぶなら、排除しなければならなくなる可能性が高い。
なので、いよいよ近付いてくるようであれば、エレクシアに出張ってもらって、『危険な敵がいる』ということを学ばせてやらないとな。
それで懲りて近付かないようになってくれればそれに越したことはない。
などと思っていたら、俺達の家に近付く前に、その接近を察知して迎撃態勢を取った連中がいた。
その様子が、ドローンのカメラに捉えられる。
「ボクサー竜……駿の群れか…!?」
そうだった。俺達と縄張りを接する駿の群れに先に接触することになり、しかも群れの子供を捕食したことで、敵認定されたらしい。
「ギッ!」
「ギャッ!!」
「ガアアッ!!」
と、俺達の家にまでボクサー竜の警戒音が届いてくる。
本来、アサシン竜は相手に察知されずに接近して狩りをするところが、完全に捕捉されてしまっている。
カマキリ人間やタカ人間に比べれば、個体の戦力では確かに見劣りはするものの、ボクサー竜も凶暴で危険な密林の狩人だ。しかも、群れを作って連携して狩りをし、仲間を守る。
<群れ>全体を一個の獣だと見做すとすれば、実は結構、容易ならざる相手である。
まあ、その点でも、凶が率いていたグンタイ竜と比べてしまうと印象は薄かったりはするんだが、それはグンタイ竜が飛び抜けて凶悪なだけで、ボクサー竜も十分に強いんだ。
丸腰の人間が一人で遭遇すれば、まず命はない。
駿の群れが俺達と一定の距離を取りつつ共存している形になってるから、ついつい忘れそうになるけどな。
その辺りもわきまえなきゃとは思ってる。