キャサリン編 人間の姿をしたゴリラ
『<当人の努力>だけで何でもかんでもどうにかなるわけじゃないのも事実だと俺も思ってる。もちろん当人も努力しなきゃいかないのは確かでありつつ、俺がエレクシアと出逢えたのは<俺の努力>じゃない。たまたまそこに彼女がいただけだ』
人生には本当にそういうことが当たり前にある。今の俺がいるのもそうだし、シモーヌがいるのもそうだし、ビアンカがいるのもそうだし、久利生がいるのもそうだし、シオがいるのもそうだし、レックスがいるのもそうだ。もちろんルイーゼも。
皆、本人も努力してきた。しかし俺と出会っていなければ、おそらくこれまで発見されてきた白骨遺体と同じ末路を辿っていただろう。
大まかではあるがここまでにこの台地の五分の一ほどは調査を終えている。もし生き延びた者がいたなら痕跡くらいは発見できてもおかしくないはずだが、それらしきものも確認できていない。サバイバルとして拠点などを作っていたとしても、数年程度なら痕跡も残るかもしれないにせよ、数十年となってくるとここで入手した自然由来の資材は朽ちてしまって当然だからなあ。しかもパパニアンの巣なんかはそれこそサバイバル生活の拠点風なのも珍しくないし、区別がつかないんだ。
完全な人工物でも残っていればまだしも、顕現する時は完全に身一つだし。
「僕もボクサー竜の群れに襲われたりマンティアンと至近距離で遭遇したら、対処法を身につけるまで生き延びられる自信はまったくないよ」
久利生もそう言っていた。ただ、
「でも唯一、身一つで顕現しても寿命を全うしそうなメンバーにも心当たりはあるけどね」
とも言っていた。するとビアンカも誰のことを言っているのか察したらしく、
「確かに彼なら素の状態でマンティアンとも互角以上に渡り合えるでしょうね」
と、いささか苦い表情で口にした。それを聞いたサディマが、
「ああ、ユキか。なるほど彼なら人間の姿をしたゴリラみたいなものだからね」
少し困ったような苦笑いでそう告げた。
「そんな人間が?」
さすがにビアンカ達がそんな嘘を吐くとも思えないものの、
『生身の人間がマンティアンと互角に渡り合える』
というのは信じられなかった。だが、
「彼は、相堂幸正は、先天性の筋肉の異常で比喩じゃなく<ゴリラ並みの筋力>を有した人物なんだ。しかもメンタル自体が野生動物に近かったんだよ。<人間の知能を有した野生の獣>というのが彼に対する評価だった」
するとビアンカは、
「私は彼のことが好きじゃありません」
吐き捨てるように言ったのだった。




