キャサリン編 人間として生まれたのに
一般的なフィクションだと事実上の監禁状態にあるサディマが拘禁反応を示したりしてトラブルになりそれが<イベント>として描かれたりするかもしれないが、元々、
『閉鎖的な空間に長く留まる』
こと自体が<任務の一つ>みたいなものだった彼にとって、そこそこ上等なホテルの一室に匹敵する今の<防疫用隔離室>での暮らしはこれといって苦痛ではないそうだ。ましてや一週間程度なら<惑星探査任務中の休暇>と同じとのこと。
まあその辺は俺も<惑星ハンター>という仕事をしていた時には光莉号の中に何ヶ月もこもりっぱなしだったりしたわけで、それを思うと『そりゃそうか』って感じではある。
だから隔離期間中にそのことを理由に何かイベントが起こる予感はまるでない。しかもサディマ自身<朋群製AI>の開発が楽しいらしくて。
ただ、
『朋群人とは?』
という点での理解がまだまだだから現時点ではサディマ当人を含む、
<地球人では有り得ない透明な体を持つ者>
をまず人間と判断できるようにしている段階だった。しかし、同じように透明な体を持ってはいても、嶽や夷嶽や牙斬や蛟は『人間じゃない』からその辺りの区別についてはシモーヌやシオやレックスと協議を重ねてるそうだ。まあ嶽や夷嶽はそもそも恐竜そっくりの姿をしてるからあれだが、蛟は見た目だけならルコアとも似ているからなあ。厳密には蛟の体は大部分が鱗に覆われていて下半身も基本的に、
<脚が退化しほぼヘビと同じ姿になった鵺竜の一種>
に極めて近いのに対してルコアの下半身はどちらかと言えばイルカに近い肌の質感をしていて鵺竜とはまったく違うんだ。現時点では存在は確認できていないがおそらくそういう感じの動物が朋群のどこかにいるんだろうとは推測されている。
しかしビアンカとヒト蜘蛛は生物的にはほぼ同種と言っていいほどに近いが、人間としての知性や理性を持つビアンカに対して昆虫と大差ないヒト蜘蛛は明らかに人間とは言えないだろう。が、そうなると今度は、
『人間としての社会性をほぼ持たないキャサリンはどうなんだ?』
という話になってくる。凶暴性の点では確かにヒト蜘蛛とさほど違わない。しかしキャサリンは確かに人間なんだ。俺達の感覚では。
だからまずは、
『人間から生まれた者は人間だ』
と規定することにしようと思う。ただそうなると今度は俺の子供達も全員<人間>ということになり、その子孫も皆<人間>になるんだよな。
『人間として生まれたのに野生に還るとはどういうことか?』
という問題が生じるんだ。




