キャサリン編 ドン引きされる可能性
『人間(地球人)なんて理不尽で身勝手な連中を見捨てないでいてくれるようにAIを設計できたというのも実はすごいことなんだ』
これはまったくその通りだと思う。アスリートが記録を更新するのは誰の目にも分かりやすい<すごいこと>ではあるものの、
<世の中には他人の目からは分かりにくいがすごいこと>
というのは実際にある。『AIで人間の感情を再現する』こと自体はもうかなり以前からそれほど難しくなくなってたそうだ。メイフェアもそのための試験機の一機だったわけだが、ただの<一般人>でしかない俺には正直なところそれが<本物の感情>なのか<単なる人間の感情の再現>なのかの区別がつかないんだよ。エレクシアはしっかりと<解析>できてしまうらしいし、サディマも、
「そうだね。メイフェア達のあれはあくまで試験段階のものであってエンジニアも本気で本腰を入れたわけじゃないのが僕にも分かったよ」
と言っていた。この辺の<AI談義>も本職のエンジニアならではなんだろうな。俺はどこまでも<素人としての疑問>を口にしただけだがそれに対してはっきりと答えてくれるのは<知識の差><見識の差>を感じる。普通に尊敬に値するよ。
それでもオリジナルのサディマが生きていた頃にはメイフェアが標準的なメイトギアであって、エレクシアはそのメイフェアをはるかに凌ぐ性能を持つ。機体の運動性などもそうだが、
「AIの完成度が桁違いだ!」
エレクシアと画面越しに接したサディマが驚きの声を上げたりもした。しかも彼は、
「もっと君のことを知りたい! 教えてほしい! 学びたい! 人間はどこまでAIを進歩させることができるんだ!?」
と、人間の女性相手にやったら普通にドン引きされる可能性もある態度を見せたり。
まあこれについても俺自身なんとなく想像ができないでもないが。密達に出逢った時には強い興味を覚えてしまったりしたし。
『どういう生き物なんだろう?』
的に。そしてその辺についてシモーヌやシオやレックスはさらに強い関心を抱いていた。だからシモーヌなんか何十年と経っているのにいまだに夢中になって調べていたりするんだよなあ。錬慈のことは忘れたみたいに。
だが俺はそれを責めるつもりはない。彼女がそうだと分かっていてパートナーになったんだ。と言うかむしろ彼女がそうだったからこそパートナーになれたと言った方がいいかもしれないな。もし完璧な家庭人だったら俺の方がそれに対してコンプレックスを抱いてしまったかもしれない。




