キャサリン編 不可能と思われていたものを可能に
<あんなすごいのを従えてる強い雄>
そこが俺と<今のサディマ>の決定的な違いだ。もちろんサディマにだってイレーネやメイフェアは味方してくれるだろう。しかし<AIに認められる人間(地球人)>である俺と違って今のサディマは、
<主人の命によりペットを守るロボット>
という形でしかイレーネやメイフェアの力を借りられない。『従えてる』わけじゃないんだ。さらにキャサリンにはドウがいる。イレーネやメイフェアでも今のドウよりもはるかに強いものの<エレクシアを従えてる俺>を見た刃や伏が受けたインパクトよりは確実に弱いだろうなあ。
なにより改めて言うが俺の時は『たまたま上手くいっただけ』であって再現性はないに等しいはずなんだ。そんなリスキーなことはさせられない。それにサディマはそもそもそういう無茶なこと無謀な振る舞いはしないタイプとのことで、あんな事態には陥らないだろうとシモーヌ達は考えている。
でもなあ、彼も初めて<一目惚れ>したらしいから、これまでのデータはもしかするとあまり当てにならないかもしれない。だから慎重に対応するさ。
一方、サディマの想いなど知るよしもないキャサリンは今日も今日とていつも通りにドウを伴って狩りへと出掛けた。
すると今回はしっかりと自分で獲物を捕らえることができた。基本的に威嚇の時以外はあまり表情を変えない彼女ではあるものの、こうして毎日のように見ていると、
『機嫌がいい時とそうじゃない時』
の違いがなんとなく分かってくる。そして今は明らかに機嫌がよかった。すると、
「嬉しそうだね。いい表情だ」
キャサリンの姿を見ていたサディマが不意にそんなことを。
「分かるのか?」
俺が思わず問い掛けると彼は、
「そうだね。なんとなく分かる感じかも。ロボット用のAIのために<人間の表情>をいかに緻密に再現するかを考えていたことで微妙な差異が分かるようになったのかもしれない」
ジョークの類ではなく本人は大真面目に応えているのが俺にも伝わってきた。確かにメイトギアは本当に人間と変わらない表情を見せる。だからこそメイトギアに<心>を見出してしまう人間もいるんだろう。だがサディマの言葉は、それすらこうしてエンジニアが苦心して作り出したものなんだと証明している。<ノウハウの蓄積>がそれを可能にしたのか。
アスリートの世界でも、少し前までは『不可能だ』と思われていたパフォーマンスを実現してしまうことがある。連綿と受け継がれてきたノウハウが不可能と思われていたものを可能にしてしまう感じだろうか。




