キャサリン編 一目惚れ
理知的で頭の回るサディマであっても決して完璧じゃないから、
『デリカシーに欠ける発言をしてしまったりする』
ことはある。人間である以上はそこは『お互い様』だと俺は思うんだ。だから彼の発言をことさら責めたりするつもりもない。そもそも彼自身がそのことを反省してるし。だったらそれでいいじゃないか。世の中には他者を害しても反省すらしないどころか『自分こそが被害者だ』的に逆ギレする者さえいるわけで。
俺には理解できない感覚だ。
だからこそサディマの在り方にはホッとさせられる。そんな彼が気を取り直して、
「それはそれとして、あのキャサリン嬢にお目通り願うことは叶うだろうか?」
なんてことを訊いてきた。しかしそれに対しては、
「いや、申し訳ないが彼女は他者を傍に寄せ付けることをよしとしないタイプなんだ。家族でさえ迂闊に近付くことはできない。彼女の方から近付いてくることはないから、お互いにそれなりの距離を保つことが彼女と良好な関係を築くコツだと思う」
正直にそう答えさせてもらう。それは紛れもない事実だから変に曖昧にしてもロクなことにはならないだろう。するとサディマは、
「そうか……それは残念だ……」
明らかにがっくりと肩を落とした。その様子にシモーヌが、
「まさか一目惚れでもした?」
こちらもいささかデリカシーを欠いたような印象もあるストレートな質問をぶつける。が、
「そうだな……その通りだと思う。こんな気持ちは初めてだ……」
少し視線を落としてあどけないようにも見える表情でそう口にした。
「マジ……?」
これにはシモーヌの方が驚いたようだった。さらに、
「サディマって誰に対しても紳士な感じだけど恋愛感情の類はあんまりない人だと思ってた」
シオも驚きを隠せない様子でそんなことを言う。
元々は彼のことをほとんど知らない俺としては、
『まあ、キャサリンって大人しくしてたら普通に美人だしな』
妙に納得してしまう。それと同じで、サディマもキャサリンのことをよく知らないからこそ<一目惚れ>なんてしてしまったんだろう。彼女のことをよく知っていればさすがにそんな気にもなれないかもしれない。歯を剥き出して威嚇してくる様子は<野生の猛獣>そのものだし。
ただその一方で彼女からは、
<野生の獣の美しさ>
も確かに感じるんだ。そういう部分に惹かれる場合もないとは言えないかもしれない。俺自身もそこに魅力を感じているのは確かにあるわけで。
いわゆる<恋愛感情>のようなものとはまったく違うが。




