キャサリン編 その両方があってこそ
『サディマが<俺達が求めていた人材>だから救うわけじゃない』
ことを改めて自分自身に言い聞かせつつ、
「それは私達にとっても重要な課題なんだ。今現在そのための取り組みを行っているものの遅々として進んでいないのは事実ではある。しかしこれだけははっきりさせておきたい。私達はあなたの協力が得られなくてもいつかそれを実現する。あなたを救うのはそれとは別の話だ。だから安心してほしい」
俺がそう告げたことに彼は、
「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるが、新たなAIの実現は今の私にとっても必要なものだと思う。だから私自身のためにも開発を行わせてほしい」
俺を真っ直ぐに見つめながら申し出る。俺達にとっても願ってもない提案だが、その僥倖に浮かれるわけにもいかない。彼にはまず<今の自分>に馴染んでもらわないといけない。そのためのサポートは行うし、必要な体制は整えてある。しかし人間は一人一人違うから、<画一的なサポート体制>が必ずしも有効とは限らない。
地球人社会においてもかつては効率やコスト重視で<福祉>も十分な効果を発揮しなかった時期があったと聞く。それ自体は残念な話ではあるもののそういうのを経てノウハウが蓄積されていくというのもあるだろうから『それが悪い』と一方的に断罪するのも極端だとは思う。
そしてそれを経て蓄積されたノウハウを基にサディマの支援も行えるんだその事実も忘れちゃいけないよな。
だいたい、サディマが優秀なAIエンジニアになれたのも多くの先人達が積み重ねてきたものの上に成立してるわけで。
そこを改めて積み重ねていかずに済むのは途轍もないメリットだよ。地球人類の文明がどこかで断絶していたらこれはなかったんだと思う。
もっとも文明が断絶していたら宇宙への進出もなかっただろうからそもそもこの状況に陥る流れ自体がなかったであろうことも事実でありつつ、
『他者の存在を蔑ろにしない』
のを、<綺麗事>と揶揄されつつも捨てなかったゆえに多種多様な人材が確保され、文明を維持できたはずなんだ。サディマが俺達に対して協力を申し出てくれたのも、結局は<綺麗事>が蒙昧な理想論に過ぎなかったわけじゃないということを表してるんだろうし。<朋群人を人間と認識できるAIを開発するメリット>が彼自身にもありつつ。
でもまあ要するに『どちらも大事』ということなんだろうな。綺麗事も大事だし実利も大事。その両方があってこそか。




