キャサリン編 求めていた人材
「私達とは一線を画した暮らし? 彼女は君達と敵対しているのかい?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ今の彼女的に単純に私達のような暮らし方は馴染まないだけなんだ」
「?」
「言葉で説明するより具体例を見てもらった方が早いだろう。ビアンカ、いいかい?」
「うん、大丈夫」
俺が想定していたよりも早くなってしまったが、ビアンカがレックスに促されて下がり、全身が映るようにすると、
「! それは……!?」
さすがのサディマも息を呑む。<アラニーズとしてのほぼ全身>を晒したビアンカの姿は彼の予測をはるかに超えていたからだろう。
やや斜めを向いて<地球人そっくりの部分>と<アラニーズの本体>がしっかり繋がっているのもはっきりと分かる。
「ここで私達が実体を得るというのは、ただ 『透明な体になる』というだけでなくこういう可能性も含めての話なんだ。ビアンカは<アラニーズ>という種族としての生を受けた。そしてメイガスは<クロコディア>という水棲生物としての生を受け、その生き方を受け入れた。彼女は今、クロコディアとして平穏に暮らしている。私達の干渉を必要とせずにね」
レックスの説明は非常に端的で、そしてサディマは聡明で、もうそれだけで十分に事足りたようだ。
「なるほど、地球人としての常識から考えれば荒唐無稽にも思えるけれど、私達が経験したものを基に考えるなら<起こり得ること>なのか……」
顎に手を当てて自分の中で状況を整理し、彼なりに納得を得たらしい。その上で気になったことを口にする。
「しかしそうなるとAIは私達のことを人間とは見做してくれないはずだ」
さすがはAIエンジニア。これまでシモーヌ達ではすぐに思い至らなかった点に気付く。しかしこれについては俺が、
「私が現時点では<唯一の地球人>なのですべて私から最終的な指示を与えています」
状況を伝えると、
「なるほど。しかしそれだとあなたが亡くなった場合に支障が出てきますね。今の我々を人間として認識してくれるAIが必須だ」
そう口にしてくれただけでまさしく彼が求めていた人材だと分かる。AIに詳しいからこそ地球製AIが朋群人にとってどういう存在かを察することができると。
それは俺達にとって非常に好ましいことである一方、
『だから彼を助ける』
わけではないのを承知しないといけないだろう。地球製AIは彼を<人間>と認めなくても俺達の感覚では紛れもなく人間だ。
人間だからこそ助けるだけなんだよ。




