キャサリン編 驚かされることばかり
「しかし、驚かされることばかりだな。ただ、色々思い出せたから納得もしたよ」
そう言うサディマにシモーヌが、
「データ世界のことも覚えてる?」
問い掛けると彼は、
「ああ、覚えてる。あそこでの暮らしは嫌いじゃなかった。時折、エラーやバグのような現象が起こるのが何とも不可解だったが」
実におあつらえ向きな話を振ってくれたことでレックスが、
「まさしくそのデータ世界で起こっているエラーやバグのような現象こそが今の我々を生み出しているんだと私達は推測している」
と切り出した。
「と言うと?」
「私達のオリジナルである者達を襲ったあれは、いわば<生きたデータサーバー>のようなものだと推測している。しかし落雷のような強いエネルギーが伴う衝撃があると誤作動を起こし、取り込んだデータを実体という形で再現してしまうようなんだ。この際、データ世界の中のデータにエラーが生じて<立ち入れない場所>ができたり<消息が知れなくなる者>が出てくる。これについては時間と共に復元されるものの、この時に消息が知れなくなった者が今の私達なのかもしれない」
「なるほど。私にも思い当たる節は確かにある。ただ、私が知る限りではレックスやシモーヌにそういう事態が生じたという記憶はないんだが」
「ああ、それについてもある程度は把握できている。メイガスとディルアの娘の名前を覚えているかい?」
「? メイガスとディルアの娘? 二人に娘なんていたかい? 私が知る限りではオベロンという息子が一人いるだけだったように記憶しているが」
「! これは興味深い証言だ」
「? まさか」
「そのまさかだよ。君は私達とは別のデータ世界から来たようだ。私達が知っているのは、<ルコアという娘がいる世界>と<クロトという娘がいる世界>なんだ」
「はは……っ! 可能性としては有り得ると思っていたが、本当に何通りものデータ世界が構築されているということか!」
「そうなるね。これで少なくとも三つの世界があるのは確認できたわけだ。なにしろそのメイガスとディルアの娘であるルコアも私達の仲間として暮らしているし、クロトという娘を持ったメイガスもいるんだ」
「何ということだ……! じゃあその二人にも会うことができるのか?」
いささか興奮した様子のサディマが問い掛けると、
「ルコアについては遠からず会うこともできるかもしれない。だがメイガスの方は私達とは一線を画した暮らしをしているからね。彼女の方から望まない限りは難しいだろう」
レックスが淡々と応えたのだった。




