キャサリン編 私は誰なのだろう?
『あなたの名前はサディマ・バーティラル。惑星探査チーム<コーネリアス>のメンバーで、この惑星に不時着し命を落としました』
俺がそう事実を告げたことに対しても、
「ああ……そうなんだな。はっきりとは思い出せないものの何となく腑に落ちたよ」
少し悲しそうに視線は落としつつ取り乱したりはしなかった。その上で、
「では、ここにいる私は誰なのだろう? 命を落としたのならば」
視線を戻して改めて問い掛けてくる。これについても俺はただ事実を告げる。
「そうですね。<惑星探査チーム・コーネリアスのメンバーであるサディマ・バーティラル>は確かに命を落としました。今のあなたは<ある種のクローン>と言えるでしょう」
すると彼は、
「クローン? いやしかしクローンでは人格の再現まではできなかったように思うが……」
<サディマ・バーティラルとしての記憶>までは戻っていないらしい彼ではあるものの<地球人としての一般常識レベルの認識>についてはすでに戻っているようだ。この辺りは<記憶喪失というものの奇妙な部分>だと感じるな。だからそれは本当に、
『一部の記憶についてアクセスできない状態になっているだけ』
なんだとつくづく感じる。そう頭の隅で思いつつ、
「そうですね。なので<地球人社会におけるクローン>とは厳密には違うのでしょう。何より普通のクローンでは今のあなたの姿につい説明できません」
と口にする。これに対しても彼は、
「確かに。私はこんな透明な体ではなかったはずだ。しかも骨も血液も透明だとか有り得ない」
ある種の納得を見せる。だから俺も、
「これは<この惑星に生息する存在がもたらした奇妙な現象>と言うしかないものです。我々の技術ではまだ解明の糸口さえ掴めていない、しかし現にこうして存在する現象です。それによってあなたはサディマ・バーティラルのコピーとして生を受けたと言えるでしょう。今は<サディマ・バーティラルとしての記憶>については戻っていないようですが、我々が確認している先例を基に推測する限りでは遠からず取り戻せる可能性があるでしょう」
改めて説明した。これにも彼は、
「なるほど、実に興味深い話ですね。普通ならさすがに荒唐無稽すぎて信じられないでしょうが今のこの私の姿を見るにそうとでも考えないと説明がつきませんし」
複雑な表情も見せつつ取り乱したりはしなかった。これも惑星探査チームに参加するような人材ならではということなんだろう。




