キャサリン編 印象
かつてコーネリアス号がここ朋群に不時着し、なんとかここで生きていこうと覚悟を決めた矢先に例の不定形生物の襲撃を受けて多くの仲間を失ったコーネリアス号の乗組員達は、それぞれ精神的に追い詰められていったようだ。
部屋に閉じこもる者。過食に走る者。例の不定形生物の侵入を防ぐために完全気密にしてあったのに耐えられなくて外気を吸おうとしてそこから侵入されて命を落とした者。様々だな。
ちなみにサディマは最初の襲撃で命を落としたとのこと。これは例の不定形生物内に構築されたデータ世界で最初に目覚めた者達の中に彼もいた上に彼自身の証言でも確認されている。
だから例の不定形生物に襲われた時の記憶はあるもののその後の極限状態の経験はないことで<心的外傷>の程度はそこまでじゃないと思われる。実際、データ世界での彼はとても落ち着いていて問題なく過ごせていたそうだ。<AIエンジニア>としての能力はほとんど役立てることはできなかったにせよ、元々高い知能と分析力を持つがゆえに普通にそれを活かして<ほぼ文明の利器がない世界>にも適応して見せていたという。
これは期待できるかもしれない。まあ彼が俺達の期待に応えてくれなかったとしても蔑ろにするつもりもないが。もし彼が俺達との関わりを避けて『一人で暮らしたい』とでも望むならホビットMk-Ⅱを必要なだけ貸与して集落を築いてくれてもいい。AIの開発に協力してもらえないのならそれは残念ではあるにしても、彼の協力は時間短縮には非常に有効でも『彼がいないと無理』というわけでもないし。
『自分の期待に応えてくれるかどうか』で厚く遇したり虐げたりするというのもどうかと思うんだ。もちろん応えてもらえたら厚遇を約束してもそうじゃないからと虐げるのは違うだろう。
メディカルチェックを終えシャワーを浴びて<病院着>に着替えた彼がソファにゆったりと腰掛ける。元々は黒髪に褐色の肌だという彼ではあるものの当然ながら完全に透明なため、髪質は短めで緩いウェーブがかかったいわゆる<天然パーマ>であることと、エンジニアという職業から抱く印象と異なりがっしりとした体型の、格闘系のアスリートを思わせるスポーツマンなシルエットだということくらいしか分からない。
加えて、顔の彫りも深く結構なハンサムだと思う。
それでいて表情は比較的穏やかで久利生やレックスに近いタイプのようだ。
「まあそうだね。基本的には柔和な感じの人だね」
シモーヌもそう言っていた。




