キャサリン編 想像できないな
だからキャサリンは体が乾くとそれこそ悠然とその場を離れた。俺達は彼女を人間だと思っているものの、キャサリン自身にとっては『人間かどうか』なんての自体がどうでもいいことなんだろう。自分が何者で何を為すべきかを気にすること自体が地球人の悪癖なんだろうと思わされる。彼女はそんな風に考えなくても自分のすべきことを分かってるんだろうな。
子供を残したいと思うかどうか自体、成り行きに任せればいいと思う。そもそも俺達が気を揉むような話じゃない。実際に彼女が子供を望むようになった時に改めて考えればいい。その時に必要になりそうなものについては既に用意ができている。
それでいいじゃないか。
そうして移動を始めた彼女は、自分の縄張りをパトロールするかのようにゆったりと周囲に視線を送りながらただ歩いた。
まあ実際のその姿は、
<巨大なクモに似た虫の頭の上で胡座をかいている全裸の若い女性>
にしか見えないからかなりシュールではありつつ。
でも同時に何とも言えない気高さのようなものを感じさせる不思議な空気感をまとった姿でもあるんだ。で、俺とは血縁もまったくないにも拘らず、家族でもないにも拘らず、なんだか誇らしい気分になってしまったりもする。
そんな彼女の後を、スルスルと滑るようにドウがついていく。あまりにスムーズな動きだったからまるで<影>のようにさえ見えた。最初にドーベルマンDK-aを作った頃に比べるとまるで別物のようだ。これまでの度重なるアップデートによって見た目は変わってなくても<精度>についてはもはや別物と言ってもいいほどになっているんだ。かつてのどたどたとした印象の不格好とさえ言えそうな姿はもうどこにもない。
もちろんメイトギアに比べれば今でも玩具同然ではありつつ。あの頃のドーベルマンシリーズの姿はホビットシリーズのそれになってると言えるか。
キャサリンがドウと一緒にいるようになってからもバージョンアップは行われ、ドウの性能も向上している。だがキャサリンは今でもドウと一緒にいるし、ドウ以外のロボットは近付けさせない。彼女にはドウとそれ以外のドーベルマンMPMの区別がついてるらしいんだ。それがなぜなのかは今も判明していない。しかし、それが判明したからといってなんだというのか。<ドウそのもの>を何機も用意して彼女を守らせるのか。それができれば俺達は安心できるにしてもキャサリン自身はそれを望んでるのか?
分からない。もしかすると『家族が増えた』と喜ぶ……
……姿は想像できないな。




