キャサリン編 自らが知っていかなければならない
しばらくそうやって草原をただ見つめているだけに思えたキャサリンが、何かを感じ取ったのか不意に走り出した。人間にはなかなか反応が難しいであろう突然の動きだ。けれど彼女の動き出しの気配そのものを感知できるドウは一瞬も遅れることなく彼女と共に走り出す。人間にはまったく同時としか思えないようなタイミングで。
キャサリンにとってはむしろそれが当たり前なので特に気にしている様子もない。時速二十キロ以上の速度で二キロ近い距離を駆け抜け、高さ一メートルほどの草が生い茂った場所にやってきた。
そこは小さな池もあり多くの草食獣が餌場にしている場所でもある。となると当然、肉食獣にとっても餌場であり、事実ビクキアテグ村の<お隣さん>なレオンの群れの縄張りでもあった。
しかし今日はそのレオン達の姿はない。別の狩場に出向いているんだろう。キャサリンはどうやらその辺もしっかりと考えているらしい。なるべくレオンやオオカミ竜とは遭遇しないようにしてるんだ。
以前はいささか無鉄砲なところもあってレオンやオオカミ竜と遭遇したら力尽くで我を通すような真似をしていた。その時点で彼女は単体でならレオンもオオカミ竜も圧倒していたが、多勢に無勢な面があったのも否めず、それをドウが補ってくれたことで何とか凌ぐことができていたんだ。
正直、ビアンカも久利生も気が気じゃなかったと思う。実際、ビアンカは何度かキャサリンを諌めようともしたんだ。しかしキャサリンにそんな<親心>届かず、歯を剥き出して威嚇してきたり、さっさと家に閉じこもってしまったり。
そんな<娘>にビアンカは涙を浮かべたりもしたものの、
「アラニーズは地球人とは違うからね。僕達は彼女のことを知らなきゃいけない。僕達のことを押し付けようとするのもまずは彼女のことを知ってからだと思う」
久利生がビアンカを抱きしめながらそう言ったと。彼自身も内心では心配で動揺していたらしいが、パートナーの姿を見て『自分がしっかりしなければ』と思えたんだろうな。
加えて、オリジナルの久利生は自分じゃない誰かが自分の与り知らないところで決めた<家を守り継ぐ役目>に沿うだけの人生だったのが本当に『自らの頭で考えて判断して決断する』必要が出てきたのと『一方的に誰かから教えられる』のではなく自らが知っていかなければならないという部分で腹を括ったからというのもあるかもしれない。
だからこそ地球人の感覚ではおよそ理解できないキャサリンの在り方を理解したいという気持ちも生まれてきたんだろうという気はする。




