リスク(有り得る話だもんな)
焔達もすっかり大人になり、だからか、家での様子も落ち着いていた。互いに毛づくろいしたりしてラブラブなのは相変わらずだが、やたらめったらと睦み合うことはなくなっていた。
だから俺としても、正直、ホッとしてる。慣れたとは言っても、やっぱり見ないで済むならそれに越したことはないし。
「やはり、人間との間での妊娠率に比べると、有意な差異が認められると考えてもいいのかもしれませんね。二例だけでは断定はできませんが」
シモーヌの言葉に、俺も頷く。
「確かにな。ただ、ちょっと残念な気もするが、子供ができた場合にどんなリスクがあるかも分からないし、そういう意味では助かってるのもあるか」
「ですね。現時点でのデータでもし子供ができた時に生じうるものをシミュレーションしてみた結果、<先祖返り>が起こる確率が最も高いと出ています。つまり、光や灯に起こったものですね。次いで、四肢の形質異常が高いようです」
「光や灯と同じになるだけなら仲間が増えるだけって言えるだろうし、それについてはそんなに気にしなくてもよさそうだが、身体的な機能障害があるのは困るな。人間の病院に行けば遺伝子治療とかで治すこともできても、ここではそれも無理だし」
「はい。自然な状態でも、日常的な活動に支障のない些細なものを含めれば約五百例に一例の割合で何らかの形質異常が見られるようですけど、焔達の場合、シミュレーションで見る限りはその三十倍以上の確率で起こりえるようです」
「六パーセント以上ってことか。無視はできない数字だな」
「ええ。ちなみに、<先祖返り>に絞って言えば、すべての形質異常の中で最も確率が高く、全体のうちの四十パーセントを占める可能性があると出ています」
「六パーセントの内の四十パーセント、か」
「ちなみに、錬是さんと密さんたちの間で<先祖返り>が起こりうる確率は、約十パーセントと出ています」
「ああ…かなり高い確率だな……でも、なるほど。分かる気がする」
こうやって具体的に数字を出して説明してもらう方が、俺は腑に落ちることが多かった。理屈っぽく説明されるのが苦手な人間も少なくないらしいものの、これは感覚的な問題だからな。俺はむしろ何となくの印象だけで話をされる方がピンとこないことも多い。たぶん、俺自身が考えすぎる傾向のある理屈っぽい人間だからだろう。
セシリアに<コーヒー>を淹れてもらい、俺はシモーヌとそんな話をしながら焔達の幸せそうな様子をただ眺めていた。
なお、この<コーヒー>は、調査の過程でカカオ豆に非常に近いものを見付けられたおかげで作ることができたんだ。
いやはや、探してみるもんだな。




