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後悔(先に立たずとはよく言ったものだ)

(ひそか)(じん)も、食事は一日に二食が基本らしかった。しかし最近では、俺の食生活に合わせてか(ひそか)も三回食べるようになっていた。さすがに俺が目の前で食べていると欲しがるからだ。


そのせいか、彼女の毛艶が良くなったような気がする。しかも、心持ち丸みが増えたような気も……


そんな俺に向かってエレクシアが言う。


「気のせいではありませんね。(ひそか)の体重は遭遇時に比べて五キロ増えています」


ですよね~。


ますますむっちりした年頃の女の子感が増した(ひそか)を見ながら、俺は自重せねばと考えていた。これ以上、彼女を太らせるといろいろと支障が出てきそうだと思った。事実、最近は運動量も減っている。体が重くなったことで動くのが億劫になってきたのかもしれない。これでは生物としての健全さを保てないかもしれないではないか。


というわけで、(ひそか)の前で食べる量を減らすことにした。俺が食べてると彼女も欲しがるからな。


なんてことを、日が暮れて河岸に寄せたローバーの中でキャンプしながら俺は考えていた。


(じん)は、特に変わった様子もない。いつものように首筋を俺の体に擦り付けて満足した後はシートの上で体を丸めて座りながら俺の様子を窺っている。


ドローンカメラの映像が映し出されたモニターを見ると、鳥少女はパラソルの下で座ったまま寝ているようだった。それでも時折、辺りを窺うように頭を動かしているのも見える。さすがに野生だけあって完全には熟睡しないようだ。そういう意味では(じん)は俺達と一緒に暮らすようになってから熟睡してるのかもしれない。


こうやって本来の生態とは徐々にかけ離れていくんだろうなあ。


俺としても、もう、情が移ってしまってるからこのまま一緒に暮らしたいと思ってる。彼女らの寿命がどれほどかは分からないが、一般的に考えて野生生物の寿命は人間に比べれば短いものが多いと思う。長くても精々が数十年だろう。その間、一緒にいてやりたい。


俺の膝に頭を乗せて甘えてくる(ひそか)をそっと撫でながら、エレクシアのことも見た。


彼女はロボットだ。生物のような寿命はない。メンテナンスさえしっかり受けていれば、数百年でも活動し続けることができる。自動修復用のナノマシンを装備したカスタムタイプなどに至っては、理論上は半永久的に機能を維持できるとも言われている。


だから、更新される技術や機能に取り残されてレガシー化するのは避けられなくても、それさえ気にしなければ限りなく不死に近い存在だろう。もっとも、ロボットだからそもそも生きてるわけではないが。


ロボットに心はない。フィクションの中では往々にして心を持っているかのような描写をされることがあるが、現実にはそんなことはない。公式にそれが確認されたことがないからだ。たまにそれっぽい事例があったりするらしいが、それも結局は最終的に心があると結論付けられることはなかったそうだ。


宇宙船に装備されているメンテナンスルームでのメンテナンスでは、外装の細かい傷は専用の修復材が切れない限り修復されるものの、物理的に大きく破損した場合の修理はできない。ましてや部品の交換が必要になればその部品がここでは手に入らないのだからどうすることもできない。


それでも、普通に考えればエレクシアは俺よりずっと長く活動を続けることになるだろう。電力は、宇宙船に搭載されたアミダ・リアクターがあれば、メーカーの謳い文句通りの性能を発揮すれば数万年は電気の心配はしなくていいから、主人である俺がいなくなっても、彼女は自身が朽ち果てるまでここにいることになる。


もっとも、それ自体がロボットに課せられた宿命と言えばそうなのか……


主人の方が先に死ぬ。不要になれば捨てられる。まだ十分に機能していても、新しい技術に対応出来なくなれば結局は使い辛いということで廃棄されて解体されて再資源化される。それと同時に、ロボットであるが故にデータや記憶は新しい機体に乗せ換えて引き続き新しい主人に仕えたりということもできる。


とは言え、エレクシアにはもうその機会もない。そう考えれば俺は酷いことをしたんだなとも思う。厭世感に囚われて無謀なことをした挙句にこれだもんな。


後悔はしていない。していない筈だが、申し訳ないと思ってしまうのも事実だった。


「エレクシア……悪いな、こんな主人で…」


ついそんなことを言ってしまった俺に、彼女はいつも通りの冷淡な表情でさらりと返した。


「ロボットは主人を選ぶことはできません。そして、ロボットは不幸を感じません。与えられた役目を果たすだけです。マスターの墓標を管理しろと命じられればこの体が動く限りそれを果たします。


マスター。ロボットを人間の感傷で計るのは無意味です。ロボットは生物ですらありません。心配は無用です」


人間の同情を、ロボットは受け入れない。そこで人間らしい反応を返してしまうと、人間は余計にロボットに対して罪悪感を感じてしまうからだ。


エレクシアのこの反応は、前オーナーのカスタマイズ故のものではないのだった。



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