未来編 受け止めてあげたいと
『自分以外の人間は自分の思い通りになってくれるとは限らない』
それは『ただの諦め』と感じるのもいるかも知れないが、しかし同時に、
<揺るがしようのない現実>
でもあるはずなんだ。どんなに御託を並べたって自分以外の人間が必ず自分の思い通りになってくれるなんて現実問題として有り得ないわけで。
その現実を現実として受け止めるか、現実の改変を求め続けるか、それ自体は<個人の自由>かもしれない。でも俺には『現実の改変を求め続ける』なんてことができる気がしない。そんなことをしていたら自分の精神がもたないという予感しかしない。俺はそんなことを続けられるほど精神がタフじゃないと自覚している。自分の精神を守るためにこそ現実を受け入れてしまうようにしてるんだ。
光莉のことにしてもそうだな。自分の心を守るために現実の方を改変して認識する人間もいるんだろうが、俺にはそれは無理だった。<思い込み>で自分の中で現実の方を書き換えてしまうことはできなかったんだ。どんなに思い込もうとしても俺にとって現実は常にそこにあった。ならもう現実を現実として受け止めてしまった方が、現実として受け止めた上でどう対処するかを考えた方が、よっぽど楽だった。手っ取り早かった。
そんな俺と同じことができない人間がいるというのも分かってる。そしてそれこそが『自分以外の人間は自分の思い通りにはならない』という現実なんだってことも。
それにどんなに自分の思い込みで現実の方を改変してしまっていても何かの拍子に現実を突き付けられることもあるだろう? そうなった時にパニックを起こしてトラブルになる事例も少なくないと聞く。そうやって現実を突き付けられないようにするためには周囲の理解と協力が必須になってくる。
でもそれは結局、自分のために自分以外の人間に負担を押し付けることでもあるんじゃないか? <気遣い>や<配慮>は人間として生きる上でどうしても必要なものではあるものの一方的に周りに対してそれを要求し続けるのは難しい。周囲の人間もずっとそれができるだけの精神的余裕を持ち続けられるとは限らない。状況が変われば破綻する場合だってあるはずなんだ。
俺自身、今のところは余裕もあるもののなんだかんだでそれを維持できなくなる可能性は否定できない。そうなった時に周りがどれだけ俺を受け止めてくれるのか。
これも結局、『受け止めてあげたいと思ってもらえる人間でいられるかどうか』が大事なんじゃないか?




