未来編 想いを綴っている
『自分より強い相手に無謀な勝負を挑まない』
平穏に生きていくためにはそれが必要だと俺は感じてる。
『自分に自信がないから逃げてるだけだろ』
とか言う奴もいるにしても、そんな挑発に乗る必要も感じない。そもそも自分より明らかに強い相手に挑みかかろうとするなんてのが『生き物として異常』なんだ。『普通じゃない』はずなんだよ。野生の生き物が攻撃的に振る舞うのは結局のところ『自分の身を守るため』だし。だから逃げられる時は逃げる。
相手の力量が分からない時にも基本的には無駄に争わないのが普通なんだ。途轍もない凶暴さを持つヒト蜘蛛でさえ危険を感じれば逃げる。逃げることを躊躇わない。逃げることを<恥>だとも思わない。なのに地球人はそれを恥だと考えることもある。
本当に『まともじゃない』と俺は思う。なぜわざわざ自分や自分の大切な者達を危険に曝そうとするのか俺には理解できない。光莉のことで追い詰められていた頃の俺はひたすら自暴自棄になっていただけでそんなことまで考えられるだけの余裕がなかった。そういうのならまだ分からないでもないにせよ、それこそ犯罪なんかで自分や家族の人生を滅茶苦茶にしようだとか意味が分からない。
素戔嗚でさえわきまえてくれてるのにな。
そんな彼は今日も朝からハートマンを相手に<手合わせ>をしている。よく飽きもせずに続けられるものだと感じるものの俺がこうやって自身の想いを延々と綴っていることも理解できない人間には理解できないだろうからそれと同じなんだろうな。
いわば、
『肉体言語で想いを綴っている』
って感じかもしれない。他人にはなかなか理解できないものだとしても俺のこれもそこは基本的に同じか。
誰に認められなくてもいい、理解されなくてもいい、ただひたすらに自身の納得のためにそれを続ける。
そういうものがあってもいいんじゃないか?
いわゆる<求道者>と呼ばれるような生き方をしてる人間は多くがそういう感じなんじゃないか? 俺はそう思うんだよ。
素戔嗚の場合はそれに加えて、
<人間の傍で暮らすための折り合い方>
という一面もあるわけで。そうやって発散しつつ自身の<序列>を実感し、この<群れ>に留まるために自分はどうするべきかを知るわけだ。
<元々のレオンの群れ>では彼を受け止めきれなかった。彼が満足するまで相手をできる者がいなかった。しかしここにはハートマン もいればグレイもいる。ドーベルマンMPMでもホビットMk-Ⅱでも彼が疲れて動けなくなるまで付き合ってくれる。もしこの群れを追い出されたらそれらも失われるのを彼は理解しているんだ。




