未来編 自分より弱い相手とは勝負しない
未来と素戔嗚であればどちらが強いかと言えば間違いなく素戔嗚の方だ。未来も決して弱くはないもののあくまでも<クロコディア基準>での話だし、そのクロコディアの中でも未来の強さは母親の來と同等程度だという印象だな。それは『ほぼほぼ標準的な』といった感じか。特別強いわけでも弱いわけでもない。
対して素戔嗚は草原における食物連鎖の頂点に属するほどの強さを持つレオンの中でも非常識な強さを持つ。おそらく正面切って戦えば未来は<瞬殺>されるだろう。
だが素戔嗚は未来相手に勝負を挑むことはない。彼は人間とは程遠い<獣>同然ではありつつ、<野生の獣>とは異なる習性をすでに獲得していた。
『自分より弱い相手とは勝負しない』
という。野生の獣の場合はむしろ基本的に明らかに自分より強い相手とは戦わないことが多いだろう。でなければ生き延びることができない。わざわざ自分より強い相手に挑むなど自ら死を選ぶのも同然なのだから。
けれどここで暮らす素戔嗚にとって<自分より強い相手>はすべてが<仲間>だった。ゆえに敗れても命までは奪われない。命までは奪われないがゆえに何度でも挑むことができる。それを繰り返しているうちに野生の獣とは違う習性を獲得してしまった感じか。
一方の未来は、<クロコディアとしての性質>を残しているからこそ明らかに自分より強い素戔嗚相手に勝負を挑むようなことはなかった。
<地球人>は動物としてはあまりにも歪で、
『自分より強い相手に嫉妬する』
という奇妙な習性が見られた。<自分より強い者>が存在することが許せなくてそれに勝利したがるという。
確かに野生の獣の中にも例外的にそういうものはいるだろう。素戔嗚もそうだし誉の群れの轟や昴もそういうタイプだと言えると思う。
けれどやっぱり基本的に相手が自分より強いと分かれば引き下がり戦わないようにするのが一般的なはずなんだ。<縄張り争い>や<雌の奪い合い>もそうだろう? 負けた方はさっさと逃げてもう関わらないようにすることの方が多いんじゃないか?
そして<人間としての知能>を獲得した未来は、直接戦わなくても相手の力を推し量ることができる。だから戦わない。もちろん自分達の命が危ういとなれば『窮鼠猫を噛む』とばかりに挑みかかることもあるだろうが、人間としての知能を持つからこそ素戔嗚にその危険がないことも理解できる。
<友達>のように親しげにするわけではないものの敵対もしない。
細かい理屈まで明確に思考しているわけではないかもしれないが、自分の頭で考えてそうしているんだ。




