未来編 やり返したいだけ
ケインは、絵本が好きだ。シモーヌが所蔵していたものをデータとして取り込んで改めて本の形で出力したものをはじめとして、コーネリアス号のAIのアーカイブに保存されていたのを本として出力したものも片っ端から読んでいる。
光は<シモーヌが所蔵していた絵本>を何度も何度も熟読する形だったが、ケインはより多くのものに触れたいと考えているようだな。
彼はあまり他人と喋らないからどう考えているのかはっきりとは確認できない。母親のビアンカのことは大好きでありつつ<会話>は少ない。言葉にして確かめようとしなくてもビアンカが自分を認めてくれてるのが伝わっているのか、なるべくビアンカの傍にいようとするだけで積極的におしゃべりをする感じじゃない。これは彼自身の生来の気性がそうさせるんだろうな。積極的に相手と関わろうとするタイプならもっとおしゃべりもするだろうし。
それを他人は『内気だ』とか『積極性がない』とか『覇気がない』とかネガティブに捉えるだろう。そういう風に捉えるのが多かったのが地球人社会だったと思う。
さらには他人の家族を指差して、
『価値がない』
みたいなことを口走るのが少なくなかった。どうしてそんな風に他人を貶められるのか俺にはまったく理解ができない。しかも俺がこんな風に言ったら、
『お前もそうやって他人を貶めてるだろ!』
とキレるんだ。まあ確かにネガティブな印象は俺も持ってしまっているが、別にその存在そのものを否定したいわけじゃない。『人間社会的に価値がない』とまで言いたいわけじゃない。あくまでも俺個人の主観の話だ。俺が個人的にそう感じてるだけで『誰もがそう思うべきだ』と言ってるわけじゃないんだよ。
個人的に『価値がある』『価値がない』と考えるのは自由だろうさ。それにまで口を出すのは違うと俺も思ってる。そこまですると<思想統制>になるだろうし、そんなものを取り入れたいわけじゃない。
だが同時にそんなものを大っぴらに口にすれば反感を抱かれることもあると理解するべきだとは思ってる。俺の子供達にそのことは分かっててもらいたいと思ってる。
『言いたいことも言えない世の中なんて!』
とか言うかもしれないが、それは自分が他の誰かから言われたくないことを好き勝手に言われたからそう思うんじゃないのか?
『自分がやられたことをやり返したいだけ』
なんじゃないだろうか。<自分がされて嫌だったこと>をやり返したいだけなんじゃないのか?




