未来編 究極のマジレッサー
そうだ。AIは人間相手に花を持たせるようなこともしてくれる一方で、その制限を掛けなければ機微もへったくれもなく正論でタコ殴りにしてくる。しかも生身の人間じゃ絶対に至れないありとあらゆる情報に精通した万能の専門家であり<究極のマジレッサー>なんだ。
人間は感情の動物でありそこを蔑ろにするのは人間という生き物を相手にするにあたっては<地雷>そのものだ。その時点で地雷を踏み抜いてしまうと<敵認定>されてリカバリーが効かなくなる。本当に身勝手で面倒臭い生き物だ。
対して人間のような感情を持たないAIは、論理的な思考しかしない。人間に合わせて気遣うような振る舞いはしてくれるものの、それすら、
『人間を相手にする上で合理的な判断である』
というだけでしかない。<理解>はしてくれるんだが<共感>は一ミリもしていないんだよ。
そう、
『理解はしてくれるが共感は決してしてくれない』
ということだ。これについてはシモーヌやシオやレックスも、
「そうね。生き物の生態について研究を続けたことである程度は行動パターンも理解できるようになった」
「でもそれは<共感>じゃないんだよね」
「ああそうだ。私達は研究者として多くの事実に触れて生き物に対する理解を深めてきた。けれどそれは決して<共感>じゃない。むしろ<違う生き物であるという事実を思い知らされること>なんだ」
と言っていた。
<人間とは別の生き物>について研究を続けることで<理解>はできても<共感>はできないと改めて実感するというのは、俺もなんとなく分かる気もする。そもそも<人間同士>でさえ本当の意味で<共感>なんかできているのか非常に怪しいわけで。『共感できてる気がする』ならよくあるとしても。
だがそれは所詮、
『自身の感覚を勝手に他者に重ねることで分かり合えているような気になっている』
だけでしかない。だからこそ『裏切られた』だの『そんな人だとは思わなかった』だのという発言が当たり前のように出てくるんだし。AIには人間のような<思い込み>がそもそも存在しないから『共感できてる気がする』こともないんだよ。自身とは異なる存在をそのまま<自身とは異なる存在>だと認識できているだけだ。
情報として『こうすれば人間はいい気分になれることが多い』のは持っていても『どうしていい気分になることに拘るのかが分かる』感覚は持っていないんだ。となれば当然、『正論でタコ殴りにする』くらいはできるよなあ。




