未来編 彼にとっての生存に適した環境
改めて言うが、
<野生において生き延びることができる個体>
は必ずしも<強い個体>というわけじゃない。確かに強ければ生き延びられる確率は大きく上がるにしても最終的には、
<状況や環境に適した個体>
が生き延びることがほとんどだと思う。それは<運>と呼ばれるものも含めての話ではありつつ。
だからこそ俺達がケインを『生き延びさせたい』『守りたい』と思うのならそれ自体が、
<彼にとっての生存に適した環境>
なんじゃないか? これまでにも何度も触れてきたが、『人間は感情の動物である』がゆえに合理性だけじゃ割り切れない。たとえ自分の家族が<自力では生きられない状態>だったとしてもその事実を受け入れられないこともある。
もちろんそう思わない家族もいるんだろうが、しかしビアンカも灯も久利生もルコアも未来も黎明も蒼穹もケインにいなくなってほしいとは思っていない。そしてそれは俺も同じ。さらにはシモーヌも光も同じだ。
陽や和や錬慈はケインとは直接の面識も交流もないからそもそもこれといって関心も持ってはいないもののいなくなってほしいとも思っていない。まあこの場合はそんなことを思うほど彼のことを知らないと言った方が正しいんだろうが、それでも積極的に誰かがいなくなることを望むようなメンタリティは持っていない。
その必要がないからだ。自分達を害しようとする攻撃者に対しては容赦なくてもそうじゃない相手に対して敵意を向けきゃいけない理由がない。それが大事だと思う。
別に聖人君子でなくともロクに関わりもない相手に対して無闇に攻撃性を発揮しない程度のことはそれほど難しくないだろう? むしろロクに知りもしない相手に対して強い攻撃性を向けるというのが異常なんじゃないか? そんなことになるのはなぜなんだ? どうしてそんなことになってしまう?
自分の家族からその存在を認められている人間であればわざわざ見ず知らずの他人を攻撃しようとは思わないんじゃないか?
俺達が心掛けているのはそういうことなんだよ。そうすることによって自分の家族が無駄に他人と諍いを起こして自ら不幸になるのを防ぎたいだけなんだ。
それがそんなに特別なことなんだろうか?
何か特殊能力を持っていないと実行できないことなんだろうか?
俺の実感としてはまったくそんなことはないんだけどなあ。
いずれにせよ俺達がケインを蔑ろにすることはない。そもそもそんな必要もない。わざわざ見ず知らずの他人を攻撃しようと思わずにいられない状況がおかしいはずなんだ。




