未来編 みんなのおかげ
『米は知識さえあれば自力で作ることは不可能じゃない』
とは言ったが、その<米を作るための知識>はどうやって手に入れた? 自分一人の力で一から見付けたものなのか? そんなことが可能なのか?
<初めて米を自ら育てて収穫した者>
は確かに自力でそれを成したのかもしれないにしても、ただその者ですら本当に『自分一人の力で』それを成し遂げたんだろうか? 誰か他の人間の力を借りたりしてないんだろうか? その辺は今となっては確認しようもないものの<タイムマシン>でも開発されない限りは確かめるのは不可能なものの、
『完全に一人で成し遂げたと考えるのは難しい』
のも事実だと思う。<家族>であれ<親しい知人>であれ<誰かの協力>があってこそのものなんじゃないだろうか。そんな気がして仕方ないんだ。
実際、俺達はこうやって一から社会を作ろうとはしているものの<俺以外の人間の協力>なしでは何一つできなかった気しかしないし。
もしここ朋群に人間社会が出来上がったとしてもそれは俺一人の功績じゃない。別に俺が<偉人>だったわけじゃない。
『みんなのおかげ』
なんだよ。俺が綴ってきたものを読み返してもおそらく一度だって『俺自身の力だけで』なにかを成したわけじゃないのが分かるだろうな。その事実を理解すればこそ俺は『驕る』ことができない。
今ここにいない人間の存在もなければ俺は今ここにこうしていないはずなんだよ。子供達にもそれを理解してほしいと思う。<獣人の血を引く子供達>は本当に自力で野生に戻ることができるかもしれないにしても、『人間として生きる』なら<自分以外の誰かの存在>は疎かにはできないと分かってほしいんだ。
それが分かっていればケインがどんなに頼りなく思えてもそれを蔑ろにしようとは考えないんじゃないか?
それにケインは未来達とは一緒に勉強しないが、実は<知能>の点では明らかに高いんだ。たぶん今の時点でも未来よりも上だと思う。年齢は下にも拘わらずだ。
人見知りが激しく引っ込み思案だから他人と積極的に話をするわけじゃないもののイザベラやキャサリンと違って『普通にしゃべる』ことができている。母親のビアンカとは実年齢よりもしっかりした話し方をするそうだ。
血は繋がっていないにも拘わらずむしろ久利生に近い印象もあるとのこと。外見はますますビアンカに似てきてるのにな。
ちなみに念のために触れておくと、ケインは『アラニーズとしては男性』ではあるが<地球人そっくりな部分の姿>は女性(と言うか若い頃のビアンカそのもの)なんだよ。だからこそ早々に服を着るようになってくれたのはありがたい。




