未来編 無謀では生きていけない
ケインは、未来達とはやや距離を置いてる印象だった。『仲が悪い』というわけではないものの同時に『仲が良い』とも言い難いのが偽らざる印象だ。イザベラはケインに対していささか当たりが強いもののそれはあくまでアラニーズとしての元々の気性ゆえのものであって『彼を強く嫌悪してる』わけじゃないのは確かだと思う。<嫌悪>しているならもっと強い攻撃性を見せてもおかしくないだろうがそこまでじゃないし。
一方、ケインの方はアラニーズとしてはおそらく特異なまでに気弱な性格だから積極的に関われないんだろう。<慎重>とか<臆病>とかは野生の猛獣であるヒト蜘蛛にも備わっている部分ではある。
<比類なき凶暴さ>が特徴であるヒト蜘蛛ではあるものの、昆虫ですら危険に対しては敏感な部分があるように慎重さや臆病な一面も備わってはいるんだ。特に幼体のうちはそうでないと生き延びられないだろう。いくら生まれ出た時点で大型犬並みの攻撃力を持つとはいえ、ここではその程度じゃ<安泰>には程遠い。ましてや共食いの習性も持つヒト蜘蛛の場合は<ヒト蜘蛛の成体>が<天敵>でさえあり、正面切って戦えばそれこそ成す術なく殺されて食われてしまうのがオチだ。となれば危険を察して身を守る必要がある。そのための慎重さであり臆病さなんだ。
ものすごくたくさんの卵を生むような生き物ならそれこそ何も考えずにただただ確率頼みで子孫を残していけるかもしれないにせよ、ヒト蜘蛛はそうじゃない。母親の体内で卵から孵り子供同士で共食いを繰り返して生き延びた数個体が外に出てくる形である以上はそれぞれが生き延びるための手立てを講じる必要がある。自身をはるかに圧倒する強い相手が無数にいる世界じゃ無謀では生きていけない。ゆえに必要なものでもある。
とはいえ、ケインの場合はイザベラやキャサリンのような<激しい気性>も持ち合わせていないから、ただただ臆病で引っ込み思案で人見知りな印象になってしまうというのはあるだろう。
さすがに残念な気もしないではないものの、彼のような個体でも生きられるからこそ<人間社会>というものは成り立ってるんだろうとつくづく思う。
朋群人は個々の生物として<地球人>に比べれば圧倒的に強者だろうが、<種としての地球人>は今の朋群人なんて比べ物にならないくらい強い。それは弱い個体であっても生き延びられるほどの社会を作り多くの才能を集め<力>を生み出してきたからなんだよな。




