未来編 それが地球人社会だ
地球人社会に暮らしていた当時から俺は<自分>と<自分以外の人間>が存在するという現実を特に難しく考えることなくただそういうものだと受け入れることができてたと思う。これも結局は俺の両親が俺に与えてくれたものの一つなんだろう。
俺は本当に『恵まれて』いた。実の両親から愛され、自分がこの世に存在することそのものを受け入れてもらえていた。その実感があった。これがどれほどすごいことなのか、ここ<朋群>から<地球人社会>を客観視するとつくづく思い知らされる。
俺もシモーヌもビアンカも久利生も自分以外の人間をただただ真っ当に当然のこととして相手のことを<一人の人間>として受け止めることを実践できてる。
これは本当にとんでもないことのはずなんだ。何しろ地球人社会では俺達が普通にやってるはずのことをできない人間は無数にいるから。
ネットなんかを見ていればそれが分かるはずだ。<共感>を口にしながら、<人としての在り方>を口にしながら、
『自分が気に入らない相手は死んでも構わない』
と本気で考えている人間が当たり前のようにいる。相手が死ぬまで追い詰めようとする人間が当たり前のようにいる。
他人の不幸を心から願う人間が当たり前のようにいる。
それが<地球人社会>だ。俺はそんな世界に生まれながらも、俺が生まれてきたことをただ喜んでくれる、俺という存在をただただ認めてくれる、そんな両親の下に生まれることができた。
それがどれだけ途轍もないことなのか、地球人社会にいた頃の俺は気付いていなかった。俺にとってはそれが当たり前だった。だからこそその<当たり前>で無自覚のうちに誰かを傷付けてしまうことはあっただろう。俺自身にはまったくそんな意図はなかったはずだが。
ネットで誰かを傷付けようとしているような奴らは、俺と同じ境遇に生まれることができなかった連中だ。一応俺自身も光莉の件で精神的に追い詰められていた頃には似たようなこともしてしまっていたが、その時の俺と同じような境遇にあったからこそ他者を攻撃せずにいられなかった人間がどれほどいる? ネットの中で誰かを死ぬまで追い詰めようとしていたような連中の中に。いたとしても決して全員じゃなかっただろう。
にも拘らずそこまでのことができたというのは、要するに俺の両親と同じことができる親の下に生まれられなかったというだけのはずだ。
『既婚者や子持ちは頭がおかしい奴ばかりだ』
みたいなことを言ってたのもいたが、そいつはよっぽど自分の両親が嫌いなんだろう。




