未来編 運転技術
ちなみに現在の地球人社会で一般的に販売されている自動車の多くは軽量かつ高靱性高剛性な素材で作られているので、重量は<普通乗用車>で一トン未満に抑えられている。つまり二十一世紀頃の普通自動車と同じサイズであればほぼ半分の重量ってことだな。俺のローバーもモデルになった車両と比べれば半分くらいの重量だそうだ。
それでも一トンもの重量の物体が時速何十キロもの速度で走る以上は、事故が起これば大変な事態に陥ることは間違いない。ゆえに<AIによる自動運転>がデフォなんだが、ここじゃ<道路>もなければ<法律>もないから自動車用の単機能AIだとちょっとつらいんだよな。だからエレクシアに運転を任せたりもしてた。メイトギアのAIは人間の日常生活の中で人間のあらゆる点についてサポートする必要があるから人間以上の複雑な思考ができるんだよ。自動車用のAIも人間に匹敵する思考能力はあるものの本質的には他のAIと連携して状況を<標準化>することで安全に運行するシステムだから、
『道路もなければ法律もない』
なんて状態で運用することはメインじゃないんだ。そんな状態で自動車を運用しようなんて人間はそもそも『自分で諸々なんとかできる』のが当然だし、完全な自動運転にならなくても別に問題ないんだ。それに自分の運転に自信がなくてもメイトギアを連れてれば運転を任せられるわけで。
陽や和にはそもそも<ローバーの運転>を習得してもらいたかったからAIはアシストだけにしてもらった。AIが操作手順を何度も示し操作について感覚的に身に付けていってもらったと。これは光や灯がローバーの運転を習得した時と同じ。ハンドルを握りアクセルやブレーキに足を乗せてるとAIが先に操作してくれてその通りに自分も手や足を動かせばいい。それを何度も繰り返すことでなんとなく身に付いていくわけだ。
そうして操作を覚えてから各種機能について学んでいってもらう。いきなり知識だけを先に詰め込んでも人間の体というのはなかなか知識の通りには動かない。動きをしみ込ませた後でその意味を知識として得た方がスムーズに取り入れられるそうだ。
まあそれについては個人差もあるから絶対というわけではないけどな。ともあれ陽も和もそういう形でローバーの運転を覚えていった。未来や黎明や黎明や蒼穹にもいずれは覚えてもらうことになる。必ずしも必須ではないものの身に付けていて損はない技能だと思う。特にこういう世界では。




