未来編 各々が努力してきた結果
こうして<授業>が始まったが、その時のルコアは本当に優しそうな、いや、『嬉しそうな』穏やかな表情をしていた。未来や黎明に求愛されてるのもことさら特別な事象というわけでもなく、ただこの空間に満たされているとでも言うか。
サーペンティアンとして顕現したばかりの頃は、両親もおらずまったく見知らぬ地に一人で、しかも異形の姿で放り出されたのもあって精神的にかなり危うい状態だったが、同じように異形の姿を持って顕現したビアンカに親身に接してもらえたことで改めて、
『新たな命としてこの世界に生まれる』
形になり、
<サーペンティアンのルコアとしての自我>
を獲得することができた。だからこそ満たされもする。土台となる部分がちゃんとしてないとそこに何をどう与えられても<満たされた実感>は得られないのかもしれない。底が抜けたコップに水を灌ぐようなもので。でもルコアはそれを得ることができた。
そんなルコアだからこそ<授業>が始まると未来も黎明もイザベラも蒼穹もそれに集中できるのだろう。明らかに精神的に不安定な者が前にいたら勉強どころじゃないだろうし。
俺も覚えがあるよ。学校の教師がプライベートでいろいろあって虫の居所が悪く教師自身が明らかに授業に身が入ってなかったってことが。そんなだから授業を受けてる方も集中できなくてロクに頭に入ってこなかったなあ。
まあそれも数日経つと嘘のように機嫌が直って普通に授業ができていたからホッとしたが、そんなことに振り回される方としてはたまったもんじゃない。ゆえに今のルコア達の様子はそれを見守ってる側としても安堵できる。
日々の平穏を確保するにはそれが大事なんだろうさ。誰かが精神的に不安定な状態にあったら周囲も影響を受けて不安になったりざわついた気分になったりするだろう? 落ち着かないだろう?
人数が増えれば増えるほどすべての人間が穏やかな気持ちでいられることは難しくなっていくだろうが、五人や十人の家族単位であればそれも決して不可能ではないはずだ。事実、俺の家族や灯の家族は穏やかでいられている。そしてそれは<そうなるように各々が努力してきた結果>なんだ。
ルコアがこうやって<授業>をしているのも、単に未来達の<知識>を増やし<知能>を高めるためにやってることじゃない。それ以上にこうして集まって一緒に学ぶことで『自分以外の存在がすぐ傍にいる』というのを実感してもらうのが実は一番の目的なんだよ。




