未来編 勉強
そうして諸々用意を済ませるとルコアが<勉強>の用意を始めた。といっても食器を片付けたテーブルにタブレットを並べるだけだが。
教科は<言語>と<基礎算術>。ここで人間として生きていくだけならそれで十分だろうということで基本的にそれだけだ。もし本人が興味を抱けば様々な知識を取り入れていってくれればいいと思うものの、強要はしない。したところでおそらく身に付かないだろうし。
地球人社会でも学校で半ば強制的に知識を身に付けさせようとしてたが現実問題として実際に知識自体を活かせていた人間がどれだけいた? 自分のほんの身近な人間だけならそれこそ小学校レベルの知識すら危ういのが当たり前にいたと思う。
もちろん高い知識と教養を持ちそれを活かせる人間もいたしそういう人間がいなければ人間社会は成立しないにしても、実のところ<知識>と<知性>は必ずしも同一じゃないからなあ。知識が豊富で学力が高い人間にも<ロクデナシ>がいたりするだろう? 倫理観の欠片もないような振る舞いをするのが。
「医師時代の僕の同僚にもいたよ。医師になれるくらいだから知識も十分で知能も高かったはずだけど、患者を<スコア>としか見ないのがね。高いスコアになりそうな患者については積極的に対処しようとするけど、そうじゃない患者についてはそれこそ<見殺し>にもしかねないのが。しかも病院もスキャンダルが表沙汰になるのを恐れて隠ぺいを図ったりと。高い倫理観を持つ者なら本来そんなことをするはずがないのにね」
久利生もそんなことを言っていた。彼自身は豊富な知識や高い知能と知性を備えつつ類稀な倫理観も併せ持った人物ではあるものの、久利生のような人間が当たり前にいるか?
生涯役立てることもない知識をたくさん持っているよりも他者を慮れる鷹揚さを持っている方が結局は人間として生き易い気がするよ。
陽や和はおそらく地球人社会でも中の上くらいにはなれそうな知能は見せてくれてるが、知識量自体はそこまでじゃないんだよな。無闇に知識を詰め込んでもここじゃそもそも使い道がないし。
『知性が高くないと理性も働かないだろ!』
みたいなことを言うのもいるだろうが、久利生の話からも感じる通りやっぱり知識と知性はイコールじゃないと思うんだよなあ。それに『知性が高くないと理性も働かない』というのは、あくまで『頭で自分を律するには知性も必要』というだけだと思うし。誉や凱の仲間達の関係が基本的に良好だったのは、『地球人並の知性があったから』じゃないわけで。




