陽編 都合のいい存在
そうだ。地球人が日常的に使う道具の類は、多くが基本的な機能の面ですでに完成してるんだよな。
宇宙船についてはまだまだ進歩の余地があるらしいものの、自動車や船や飛行機についてはもう<快適性>や<エネルギー効率>くらいしか追求するところがないそうだし。まあ後はデザイン面でそれぞれの時代の流行を取り入れる形になるだけか。
自動車のデザインも、流線型になったりそれこそ角張った箱型になったりしても、時には俺のローバーのように昔のデザインを復刻したりすることはあっても、本質は変わらない。
その点ではロボットは、ありとあらゆるものがロボット化することで本当に多種多様なものが現れたのか。
その中でメイトギアについては、
<人間と酷似した外見を持ち人間の日常生活に溶け込むロボット>
という意味では完成の域に達しているとも言われているな。俺もエレクシアに対してこれ以上何かの機能を求めようという気にはなれない。『人間になってほしい』とも思わないんだ。ロボットはあくまでロボットでいい。
人間のように心や感情を持って苦しんでほしいとも思わない。淡々と自らの役目を果たしてくれればそれでいいんだよ。ロボットを愛してパートナーとして一緒に暮らそうとする人間もいるが、そういう者達は今のロボットを愛せているんだから別にその先は必要ないんだろうし、むしろ『人間と同じ』になってしまったら逆に愛せなくなってしまう可能性さえあるだろうな。人間と同じように自分にとって都合の悪い部分も出てきてしまうだろうし。
そう考えると『人形やロボットを愛する』というのはやっぱり、
『自分に都合のいい相手しか愛せない』
ってことなんじゃないのか? と思ってしまう。俺も密や刃や伏や鷹を愛していたが、彼女達は決して、
<俺にとって都合のいい存在>
ってわけじゃなかったしな。機嫌を損ねたら下手すると命の危険まである相手だったし。シモーヌはそこまでじゃないにしても、俺の言いなりってわけでもない。加えて今でもレックス(オリジナル)のことを愛してるしな。
俺はあくまでそういう<俺にとって都合の悪い部分>も含めて愛してただけだ。
俺にとっての<愛>は、
『相手を自分とは別の存在だと認めた上で受け入れる』
ことなんだ。自分とは別の存在だから自分にとって都合がいいばっかりじゃないのは当然だよ。その上でお互いに敬い労わり慮ることができればそれで十分じゃないか?
平穏でいられるんじゃないか?




