未来編 親なんてものは
ただし歯磨きについてはこうして誰かと一緒じゃないとついつい疎かになるのもまた事実ではある。嫌がるわけじゃないが本人的には<やらなきゃいけないもの>という認識はまだないらしい。加えて完全に習慣づいてるわけでもないと。まあまだ十歳とか十一歳だからなあ。
子供ってのは不思議と自分の体や口の中が汚れててもそんなに気にならないみたいなんだよな。俺も自分が子供だった頃のことを思い出してもそんなに気にしてなかった覚えがある。思いっきり遊んで汗だくになった後で風呂にも入らずに寝ることができた。
それが無理になってきたのは大学に入った頃からだったかなあ。高校の頃にはもう入らないと気持ち悪いと感じてた覚えもあるものの疲れてたりしたらそのまま眠ってしまえたのが、しっかりと風呂に入って体を洗ってからじゃないと寝られなくなったんだ。シャワーで汗を流しただけじゃ駄目で。不思議だよな。
そのことをシモーヌに話すと、
「え〜……」
とドン引かれたが。
「私は子供の頃にはもうお風呂入らないと寝られなかったけどなあ」
と口にするシモーヌに、
「私もですね」
ビアンカが同調する。しかも久利生は、
「僕は両親が厳しかったから、『入らない』という選択肢がなかったね」
だと。さらには光まで、
「私も言われなくても入ってたからなあ」
と、孤立無援かと思ったところに、
「私は平気だったよ」
灯の援護射撃。確かに灯は全力で遊んで電池が切れるようにして寝ることが多かったな。それをセシリアが<介護>のようにして寝たままの灯を風呂に入れてくれてた。俺も灯が小さかった頃は風呂に入れてやったりもしたものの体重が十キロを超えた頃にはもう難しかった。安全のためにもそこはセシリアに任せたよ。それこそ<メイトギアの本分>でもあったし。
<子供らしい深い眠り>なのもあったにせよ、何より灯自身が安心しきってくれていたんだろうなと感じる。不安があったらそこまで熟睡もできなかっただろうし。
俺が入れてあげてた時もそうだったのが少し自慢ではある。
ただまあ、灯の場合は十代半ばくらいになっても風呂にも入らずに眠ってしまってたことがあったからなあ。さすがに、
『女の子としてそれはどうよ?』
と思わないでもなかった。自分も風呂に入らずに寝てしまうことがあったってのに身勝手なもんだ。
親なんてものはその程度ではある。
だから俺達は口煩くは言わない。ただ一緒に歯磨きなどをして手本を示すだけだ。
それだけなんだよ。




