未来編 プロローグ
凱が亡くなって十日ばかりが過ぎた。けれど俺達の日常はこれまでと変わりなく続いている。もちろん凱の群れも何かが大きく変わるわけでもなくボスとなった<走と恵の娘である讃の子>の阿嵐がしっかりとまとめてくれている。
ただ、一人でまとめるには少々群れが大きいのも事実だろう。凱が生きていた時には彼の求心力もありまとまっていたが、残念ながら阿嵐のそれはそこまでではないのも確かなようだ。
これは別に、
『阿嵐が凱よりも劣っている』
という意味ではなくあくまで<タイプの違い>でしかない。走と凱は<二人で一人のボス>だったため、走に対する畏敬の念を凱が代わりに受け止めていたというのもあるのだろう。
だからか、狩りに出た仲間が一人、また一人と帰ってこなかったりもした。狩りの途中で亡くなったというのでもなさそうだ。おそらく、
『走が亡くなり凱も亡くなった群れに居続ける意味がなくなった』
という感じか。先ほどは『凱の群れも何かが大きく変わるわけでもなく』と言ったが、それは、
『仲間達が阿嵐に対して不満を抱いて群れが瓦解する兆候を見せているみたいな話じゃない』
というだけで、ある程度の<変化>は当然あるんだ。阿嵐に牙を剥くわけじゃないから下剋上を狙ってるわけじゃないにせよ、<物足りなさ>はあるのかもしれないな。
だが、それでいいと思う。改めて言うが何しろ一人のボスがまとめるには今の群れの規模はいささか大きすぎる。走が亡くなってからここまで維持できていたのはたまたまなんだろうさ。凱が阿嵐にボスの座を譲ってからも凱がいることで事実上の、
<もう一人のボス>
だっただろうからな。だから大きすぎる群れでもなんとかまとまっていられた。
それだけの話だ。
ちなみに群れを去ったレオンの中には、コーネリアス号を挟んで縄張りを持つ朗の群れに加わった者もいる。元々、縄張りが隣り合っていたのもあって、と言うか走と凱がボスだった頃には事実上<群れの一部のようなもの>だったから、中には割と交流を持ってたのもいたんだよな。そういう意味では自然な流れだったのかもしれない。
が、それとはまったく違って完全な別の群れに合流した者もいる。最近になってこの草原で確認された群れだった。他所から移ってきたらしい。精悍で力強い大柄な個体がボスを務める群れだ。なるほどまだまだ若い阿嵐よりは頼りになりそうにも思える。
群れで生きるレオンにとって<頼りになる仲間>というのはとても重要だからな。




