閑話休題 ルコアの望み
<ルコア・ルバーン・ドルセント>
サーペンティアンとして顕現した彼女は最初は<十三歳>だった。これはルコアが、
<不定形生物の中に再現された世界>
において母<メイガス・ドルセント>と父<ディルア・ルバーン>の長女として育ってきたことを前提に便宜上設定された年齢だった。
その彼女も現在二十四歳。地球人としてみれば<妙齢>と称しても差し支えないと思われる。ちなみに<サーペンティアンとしての能力>という意味では顕現時点で、
体重:百十キロ。全長:七メートル。握力:四十キロ。
だったものが、
体重:三百三十キロ。全長:十二メートル。握力:百キロ。十メートルダッシュ:一.四二秒。
となっている。ちなみに十七歳時の十メートルダッシュの記録は〇.九八秒だったことを考えると<運動能力のピーク>はすでに過ぎていると考えられるかもしれない。しかし<人間>の場合、
<肉体のピークを過ぎてからの人生>
がとても長いので、そういう意味ではあまり心配する必要はないだろう。
『どう生きたか?』
が重視されるわけで。
ただ、ルコアは<治療カプセルと医療用ナノマシンを用いたメンテナンス>が受けられないのもあって、日常生活の中でのケアを怠ると衰えが一気に進む可能性はある。もし子供を望むのなら、サポートこそは全力で行ってもらえるにせよ、<治療カプセルと医療用ナノマシンを用いたメンテナンス>が受けられる者と比べればハンデは確かにある。実際、実年齢では四十二歳となった光や三十六歳となった灯は明らかに実年齢より十歳は若く見えるし、老化抑制処置を受けたオリジナルの形質が再現されているビアンカもまだまだ若々しい。しかし<不定形生物内のデータ世界>で生を受けたルコアは老化抑制処置を受けていないので、加齢の様子は基本的に二十一世紀初頭頃の、
<医療技術やアンチエイジングの知識は発達したものの老化抑制処置まではまだ実用化されていない時点での人間達のそれ>
であり、安全に妊娠出産が可能な時間はあまり残されていないだろう。
『妊娠出産することだけが女性の幸せじゃない!』
のは確かではあるものの本人が望むならば現実問題としてそういうハードルはどうしてもある。
だが、ルコア自身はそこまで意識しているようではなかったし、彼女の周りも取り立ててそれを話題に出したりはしなかった。
『本人が好きにすればいいし、後はなるようになればいい』
と考えてくれているのだ。
『子供が欲しいなら急いだほうがいいよ』
的なお節介もしてこない。




