陽編 エピローグ
凱が旅立ったことで<野生で生きる俺の子>は彗を残すだけとなった。その彗は現在の実年齢は三十四歳。地球人なら老化抑制処置がまだ実用化されていなかった二十一世紀初頭頃であってもまだまだ『若い』と言われる範疇にあるような年齢だな。まあさらに若い連中からしたら<おっさん>とも呼ばれたりするんだろうが、肉体的な衰えも感じ始める時期なんだろうが、それでも当時の平均寿命からしたら『半分も生きてない』年齢だったはずだ。
だが、ここ朋群に生きる<獣人>達の基準で言うともうすでに十分<老齢>だった。凱が満四十二歳直前で亡くなったことを思うとまだ時間はありそうに感じるものの走は三十八歳になる前に亡くなり、姉であり同じアクシーズでもある翔がそれこそ三十五歳で亡くなった事実を考えればもういつ最後を迎えてもおかしくないんだよ。
パートナーである清良とももう何年も『ご無沙汰』らしい。さすがにお互い<そんな気>にはなれないようで。それでも二人はすこぶる仲がいい。最初は<押し掛け女房>的に清良の方から猛アタックして始まった関係だったものの、彗にとっても心地の好いものらしいんだよな。
そんな二人の姿を見て、
「僕達もずっとあんな感じでいたいよね」
「うん、私も憧れるよ。ああいう関係」
陽と和がなんてことを口にする。もう十分、<そんな関係>のような気はするもののさすがにまだ若いか。しかも彗と清良のそれと違って麗の存在もある。アクシーズは、雌が子供を生んで育て始めると雄は他の雌のところに行ってしまったりするにせよ、パートナーでいる間は一対一の関係が普通なんだ。しかもかなりラブラブな感じの。
対してパパニアンは、ボスやボスに次ぐ有力な雄は何人もの雌と同時に関係を持つことがある。習性が根本的に違うんだ。だがそれぞれの習性の中では陽達も彗達もパートナーに対して真摯に向き合ってると思う。
それでいい。それでいいはずなんだ。地球人の在り方だけが<生き物として正しい>わけじゃない。その状態で問題なく成立してるなら様々な在り方があっていいはずなんだよ。
決して<波乱万丈>というわけじゃないし『物語として見応えがある』わけじゃないどころかきっと退屈極まりない<駄作>なんだろう。でもな、誰もが自身の命をエンターテイメントにしたいと思ってるわけじゃないんだ。俺自身、子供達の命をエンターテイメントにしたいとは思ってない。
思ってないんだよ。ただただ幸せに生きてほしいだけなんだ。




